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アパートの鍵貸しますのsensatismのレビュー・感想・評価

アパートの鍵貸します(1960年製作の映画)
3.8
2020/145
連れ込み部屋を貸す男の話。
序盤は不倫している上司たちに昇進の手助けをするからと言いくるめられ部屋を代わる代わる貸す、翻弄されているなよっちいジャック・レモンにクスクスできるんだけど、時折ハッとさせられるようなシーンがたくさんあっておもしろかった。

功を成して課長に昇進して買ったハットを自慢げに披露したときのシャーリー・マクレーンのドン引きしたような表情とか、それに気づかずハットを「どうかな?」ってしつこく言い続けるジャック・レモンとの対比になんだがゾッとさせられた。

上司たちに言い分を主張してもいつも無理やり押しのけられてしまう、フランにデートの約束をすっぽかされてしまう、課長に昇進できてからというもの不倫部屋に積極的になりフランにも大口を叩く、お人好しで利用されがちで、でもそんな自分を許すお調子者であんまり頭は良くなさそうなバクスターが部長シェルドレイクの不倫相手がフランだと知った後からは刃物で切れそうな雰囲気をかもし出していてそれも目をみはった。
「割れてるね」
「知ってるわ この方がいいの わたしの心を映して」
バクスターの部屋に置き忘れたひび割れた鏡をのぞいて関係性の全てを察する。
ひび割れた鏡が語る心象はなにもフランだけのものではない。

上司たちと同じように私もバクスターのことを舐めていたんだけど、フランが自殺未遂した時の立ち回りにも感心してしまった。フランにもシェルドレイクにも被害が及ばぬよう自分を悪者へと仕立てあげ、フランに対して気遣いをみせ、悪漢シェルドレイクをいまだに好きなフランに電話を代わってやる。一番驚いたのはまた自殺するかもしれないからと剃刀の刃をこっそり抜いていたこと。そんなことまで気を回せるのかとビックリしてしまった。
コイツ見かけ通りの男ではないなと、得体の知れなさを感じた。

未練たらたらなフランを元気付けるためか、自分も以前人妻との不倫の末拳銃で自殺未遂を試みて、誤って太ももに発砲してしまった、という話を聞かせる。ここまでくると冗談だと一蹴できない。
しかも本当に戸棚から拳銃を取り出す…
「物事はすべて成り行きだわね」と呟きようやっとバクスターのアパートに向かうフランだが発砲音が鳴り響く。
物語上あり得ないと思いつつも、バクスターが本当に拳銃を手に取ったのではないかと不安を煽られる。
本当はそうじゃないんだけど。
そう思わせられることにすごさを感じた。

バクスターは怒らせたら一番ヤバくて怖いタイプの男だってことがようく分かる映画だった…。

アメリカには日本にあたるラブホテルがないことも知って、じゃあどうやって不倫してるんだよって気になって調べたけどあまりよくわからなかった。多分アメリカでは社会人・独身は皆一人暮らししてるんだろうな、だから片方のお家に行けるのだろうな。この時代の女性陣は違うのかもね。
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