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カッコーの巣の上でのsensatismのレビュー・感想・評価

カッコーの巣の上で(1975年製作の映画)
4.5
正直自由と尊厳を求める話ってお腹いっぱいだったりするけれども、それでもジャック・ニコルソンの「ああこういう根明で善悪の概念がない無邪気なゴロツキいるよな」っていう感覚が好きだった。

ビリーと女友達を個室へ連れ行ってやった後、開け放たれた窓辺のふもとに座り込み、一分以上にわたるワンカットで撮ったジャック・ニコルソンの表情のうつろいがとても印象的だった。
彼はニヤニヤしたりふと虚な表情になったり、と思ったら嬉しそうな顔をしたり、そわそわして不安定で落ち着かない。
多分、精神病院から出て行ったその後のリアルな現実で暮らす自分を想像したんじゃないかな。マクマーフィーも中年だから夢だけで生きることはできない。だから不安な顔をする。
どうして寝入ってしまったの?
なぜすぐ飛び立たなかった?
本当は精神病院でみんなの憧れのヒーローを振る舞いながら、衣食住に困らない生活に未練があったんじゃ?
檻の中で自由を夢想してる時が一番楽しいと分かってたからでは?邪念が働く。
物語って始まりは普段いる世界とは違う場所に紛れ込み、終わりはその世界から出ていくプロットが多いけど、抜け出したその後の人生ってどうなるのだろう?といつも思う。
「おとぎばなしの続きなんてだれも聞きたくない」
映画『卒業』の二人結ばれた喜びから一変、気まずそうな表情を見せた男女の未来。
チーフは精いっぱい生きてゆけるだろうか?でもきっと彼は後悔しないだろうな。それだけで十分。

(戯言)
せまい社会集団に異物が放り込まれ、サークルクラッシャーとは逆の作用を生み出しまわりを巻き込んでいく様子。漣のように広がってゆく波紋。意図せぬちいさきナポレオン。おもしろいよね。

(戯言)
私は別に看護婦長が支配の象徴だとは思わない。ただその時流行していた医療療法に沿って本人の仕事を遂行していただけだから。60年代当時はだれも間違っているだなんて気付けなかった。いくつかの違和感が織り重なりあきらかな誤ちにまで形を成さないと変化は起きない。マクマーフィーやビリーは違和感の踏み台となって散った。残されたものはその意味をずっと考え続けなきゃいけない。その繰り返し。
なんとなくカズオ・イシグロの『浮世の画家』を思い出した。

作品の背景とかはこれを読めば大体わかると思う
https://note.com/iso_zin_/n/n00ad8bd3db79
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