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シルビーの帰郷の一人旅のレビュー・感想・評価

シルビーの帰郷(1987年製作の映画)
3.0
ビル・フォーサイス監督作。

母を自殺で亡くした幼い姉妹と叔母・シルビーの心の交流を描いたヒューマンドラマ。

田舎町が舞台の小粒な作品だが、初対面の人間同士の交流・衝突・和解の過程を静謐なタッチでしっとりと描き出した人間ドラマの佳作。何より、クリスティーン・ラーチ扮する叔母・シルビーのキャラクターが個性的。お話は姉妹の回想というかたちで進行していき、本作の主人公も姉妹ではあるが、破天荒なシルビーの個性に引っ張られるかたちで物語は進んでいく。

『シルビーの帰郷』という邦題通り、母を亡くした姉妹の元に遠路はるばる叔母・シルビーが帰郷してきて、姉妹とシルビーのささいな日常の風景が映し出される。何にも縛られず放浪の人生を送るシルビーは自由を象徴する存在。姉妹が無断で学校を欠席しても決して怒らないし、上から目線で指図をすることもない。近づ離れずの一定の距離を保ちながら、シルビーは姉妹に自由の意味を教え、自分の人生を自分自身で考えるきっかけをもたらす役割を果たす。

姉・ルーシーは引っ込み思案で内気な性格。一方の妹・ルシールは今どきの女子という印象で明るく社交的。対照的な性格の姉妹が、母の死をきっかけにシルビーと出会い、交流を深めていく。一応、“姉妹の成長物語”的側面もあって、シルビーとの向き合い方の違いが、ルーシーとルシールそれぞれの人生を対極の方向へ導いていく。ただ、姉と妹どちらか一方が正しい、という択一的な結論を求めていないのが重要で、人生のあらゆる可能性・多様性を容認している点がとても人間的で、希望的。“自分が決めたなら人生に間違いはない”というメッセージが込められている。

また、異質な人間に対する地域社会の偏見と冷たさ、息苦しさを浮き彫りにした内容にもなっていて、“束縛的世界からの魂の解放”という意味合いも含まれている。物語の根底に一貫して流れているのは、自由の精神だ。

そして、現実的で手厳しい物語とは裏腹に、幻想的で自然風景をふんだんに取り入れたシーンが魅力。夜の鉄橋を延々と歩き去っていくシーンや、小舟に乗って自然の中を旅するシーンが印象に残る。
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