しちれゆ

WANDA/ワンダのしちれゆのレビュー・感想・評価

WANDA/ワンダ(1970年製作の映画)
4.0
【忘れられた小さな傑作】
ワンダの夫曰く「ワンダは最低の妻。子どもの世話も掃除もせず朝は起きず、帰ると寝ている」離婚裁判の場に頭に山ほどのカーラーをくっつけてやってくるワンダ。夫の横には新しい妻。
こうして家を追い出されたワンダはデニスという男と出会い、彼の犯罪の片棒を担ぐことになる。
支配的に見えたデニスはワンダに服や口紅を買ってやり、寒いときは自分のジャケットを掛けてやり、ワンダは言われた通りに腹に詰め物をして妊婦のふりをする。カーラーで覆われていた頭にはたくさんのマーガレットがついた幅広のヘアバンド。お金を出してくれ、ものを買ってくれる男ならとりあえず誰でもいい。おまけに「よくやった、いい子だ」って言ってもらえるんだもの(この時のワンダの嬉しそうな顔。彼女はその人生で褒められたことなど なかったのでしょう)。

16㍉フィルムのザラザラとした画質の中でワンダとデニスは奇妙に連帯していき、やがてくる破滅に向かっていく。
ワンダは言う「私は何も持ってない、これまでもこれからも。」
けれどワンダには悲壮感はない。自尊感情が欠如している彼女は、食べ、ビールを飲み、煙草を吸うために男たちの間を漂流する。
監督・脚本・主演はバーバラ・ローデン。夫は23歳年上の名匠エリア・カザン。バーバラ・ローデンもまたカザン監督の横で自分を無価値な人間と感じ、苦しんでいたというから驚く。1970年、″伝説のデビュー作にして遺作″と言われる本作を世に生み出すことで彼女は救われたのであろうか。
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