常盤しのぶ

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアの常盤しのぶのレビュー・感想・評価

4.5
ロードムービーの最高傑作。余命幾ばくもない男二人が海を見るために車を飛ばす。小難しいことは何もせず、ギャングに追われなから海を目指す。90分という素敵な尺でありながら、観終わると澄み切った大海原のような爽やかな気持ちにさせてくれる。

へっぽこギャングが絡んでくるあたりタランティーノ風といえる。しかし、チープな模倣作ではなくしっかりと味が出ている。映像も音楽もチョイスが素晴らしい。当たり屋のガキ、多額のチップをもらって速攻辞めるホテルのボーイ、コプター呼びのデカ……登場人物全てが愛おしい。

車を盗み、ガソリンを盗み、ん、銀行を襲う。海を見るまでにあらゆる犯罪をこなしていくが、不思議と嫌悪感はない。間違いなく死は二人の側まで近づいているが、不思議と暗い気持ちにはならない。フィクションとしての物語の進め方が異常に上手い。不自然さがないというか『こういう場面で観たい展開』を延々と観せてくれる。

ヤンチャなマーチンと堅物のルディ。ルディは最初こそマーチンの暴走に嫌気を感じていたが、次第にノリが調和していき、超高級ホテルで一緒に飛び跳ね、友達として命を張るまでに至る。そんな彼がたまらなく愛おしい。途中でマーチンの薬を求めるシーン、クライマックスを除けばあのシーンが一番好き。最初は銃を見るだけであんなにビビっていた彼が、マーチンの危機を救うため、一緒に海を見るために身体を張るシーンは涙なしには観られない。

やりたいことをやりきって、悔いなく生きる。その気持ちよさを教えてくれる素晴らしい作品。特にクライマックスは映画史に残る名シーンだと思う。