KnightsofOdessa

黒いオルフェのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

黒いオルフェ(1959年製作の映画)
3.0
[ブラジルのオルフェウス伝説] 60点

それまでのいわゆる観光映画的な紋切り型のブラジル描写から外れた最初の作品とのことだが、撮影開始5ヶ月前からファベーラに住み込んでいたというマルセル・カミュのブラジル愛が炸裂しているとはいえ、その"ブラジル像"はあまりにも単純かつ能天気なのは気になるところ。冒頭の丘の上=ファベーラ→海=都市部という構図も、貧しいけど明るく暮らしているファベーラの住民の描写も、ひたすら踊りまくってるのも、スシ!フジサン!ニンジャ!みたいな日本描写と大差ない。それは当時から見てもそうだったらしい。例えばグラウベル・ローシャは本作品にブチギレた映画評を投稿していて、本作品の"ブラジル像"を打ち倒すことを起点の一つとしてシネマ・ノーヴォを発展させていったというのだ。また、本作品はヴィニシウス・ヂ・モライスの戯曲を映画化したものであり、舞台版と同じくアントニオ・カルロス・ジョビンが音楽を担当しているため、いわゆるボサノバの世界的認知に貢献した作品でもある。そんな感じで歴史的価値は十分。

個人的には神話とか古典を現代に翻案する作品の原点とのリンク具合を感じるのが好きなので(最近でいうと『水を抱く女』の冒頭でウンディーネに別れ話を切り出すおじさんみたいな)、オルフェウスがギター上手いとか、嫉妬深い婚約者が運命の相手=ユリディスじゃないとか、そういった細かい翻案がとても良かった。思い返すとオルフェウス伝説ってエウリュディケが死んでからしか覚えてないので、ユリディスを地元の村から追ってきた死神とか意味不明すぎて最高。

死んだ直後から赤い光に付きまとわれたり、無人の失踪者捜索課で散らばった紙が風で舞い上がったり、ユリディス死亡後の演出も過剰で笑ってしまうんだが、鮮やかな衣装で熱狂的に踊ってたせいで、肝心の"振り返ったら死にます"要素が薄まってしまったのが残念。
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