前2作は私たちの生きる世界と地続きの未来だったが、『サンダードーム』では大きな隔たりを感じさせるような別世界が舞台となり、ファンタジー的要素が一気に増している。マッドマックス・シリーズを見ながら、ずっとモヤモヤしたものを抱えているのだが、おそらくそれはシリーズとしての一貫性が不明瞭だから、の様な気がする。変わらないのはメル・ギブソンだけ。ペットも犬から猿に。インターセプターの登場も、ほんの少し。前2作の重要なアイデンティティであったはずの迫力あるカーアクションも控え目。むしろ『マッドマックス2』において追加されたマックスの新しい救世主という側面が生きてきている。あまり釈然としないのだが、『2』で「相棒」を演じたブルース・スペンスが似て非なる別人物として登場していることからも、ディストピアにおけるさまざまなパラレルワールドをさまようマックスの物語、として見るべきなのだろう。
もともと多くを語らないタイプの主人公だし、時間と共に内面も大きく変化していることが示唆されているから、これをシリーズとして見たときに各作品をつなぎ止める決定的な何かがわかりにくい。でも、監督の圧倒的な美的センスを前にしては文句もつけがたい。まるで監督が、さまざまなアイディアをマックスというキャラクターをつかって実験しているような、そんな印象だ。ディストピアの円形競技場たるサンダードームの劇場性とティナ・ターナーの圧倒的存在感を見ながら、やっぱりこの人はミュージカルをやりたいと思ってるんじゃないかという思いを強くした。欲望と糞にまみれたバータータウンとは対照的な、砂漠のオアシスに住む取り残された子供たちのピュアなコーラスなど、そういう片鱗はある。そうか、そういう一貫性はあるかもしれない。
ただ、やはり前半と後半のギャップがあまりにドラスティックすぎて。荒廃した未来の中世に逆戻りしたような世界観は面白いだけに、残念だ。