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ワンダフルライフの教授のレビュー・感想・評価

ワンダフルライフ(1999年製作の映画)
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正直、個人的には「駄作」にカウントしたい。
ただし、色んなことを冒頭から感じるのも事実。

死後の世界のお仕事。
という現実から地続きのファンタジー世界。
この虚構空間に持ち込まれるドキュメンタリー。
これが、僕はうまくハマっているとは思えない。
是枝監督は「死」を通して「生」を浮かび上がらせる装置としてこの手法を選択したのだと思う。
しかし。その装置がデンと画面の真ん中にこれ見よがしに置いてあり、いわゆる自然体な演技を「やらされている俳優」と一般の素人たちが混在する。
だが、これも実は混在してはいなくて。
役者たちは、明らかな「自然体」というめんどくさい演技をしていて。
素人さんは、如何にも、素人さんらしい生々しさ、によって構成されていて、ドキュメント性は希薄。の反面、劇空間としても中途半端になってしまっているように思う。

つまり、グレーな世界にしてしまったが故に、どちらもうまくいっていない印象。
そこに基本的には邪悪な世界がないため、個々の人物たちの物語が、やはりこれも薄っぺらく見える。

特に、いつもの伊勢谷友介は、もう。
酷い。
彼はいつも酷いから(20年経過して今も何も変わらない酷い芝居をしてるからある意味で凄い)、逆にイライラが際立ってきて逆に面白いが、作品の素晴らしさには結びつかない。

これは。
作風もまぁ、近くて、同時期に出てきた河瀬直美とは雲泥の差だと思う。
河瀬直美の映画にはあって是枝裕和の映画にはないもの。
それは人間の芯に横たわる「性」の問題だと思う。
その、人間の美しくもありまた醜くもある「性」のほとばしりがないため、「生」が浮かび上がってこないのだ。

つまり是枝裕和の描く人の「灰色」は限りなく白が濁った灰色で。漠然とした白になれない灰色なのだ。

しかも意図的に漂白されない灰色。
だから、どうしても是枝作品から、人間の感情をうまく読み取れない。
まだ、この時点では。

ただ、ARATAや寺島進なんかは、この手の演出に映える俳優だなぁって思った。

で。
映画として観ると。
2点。
やっぱり決定的に不足してる。

ひとつは、ARATA自身の物語と内面。
彼が成仏したいと思うのなら、その、現在の世界での違和感や、実はそこから抜けたいという「フシ」がないと、ダメなのだが、それを描いてくれてはいないので、感情移入ができない。

あと、小田エリカとの関係性。
ここに男女の物語が深まっていかないので、やはり、ARATAだけでなく、小田エリカのキャラクターも描けてないことになってしまっている。
だからやっぱり、本作のメッセージが綺麗事になっちゃってるんだなぁ。
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