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渚のシンドバッドのotomisanのレビュー・感想・評価

渚のシンドバッド(1995年製作の映画)
4.0
 貧血少年を狙う吸血少女という趣のところ、少年には同性愛、少女は強姦被害者という背景があって、それが二人のあいだとその周囲、クラスの空気をさざ波立たせる。
 やがて同性愛の件から事が拗れてゆくが、それが大波になる前に視線は部活のブラバンの諸事情に逸れ、友人たちの離合、相原(吸血)少女を巡る悶着に転じてゆき次第に分からない様相になってしまう。
 今ならいじめ案件の大きな事件に発展させて大人の管轄にでもなって二人と第三の少年、吉田君の主体性はかき消されてしまうだろう。くさいものにフタをしてやり過ごしてた時代の末期、男女三人、同性愛成就不確定男子たちとこの二人にどっちつかずな女子のよくわからないが濃い関係が、青春時代の真ん中は道に迷っているばかりか、70年代よりも更に迷路性を増しているぞと訴える。
 そのとき、大人たちの事情もうるさいクラスの連中も三人の周囲の友人たちも後景に消え失せて三人だけの道半ば風景となり、ついに海辺の田舎に引きこもった相原少女のもとへの少年二人連れ立っての通い婚となるのが、真剣味溢れる中にも可笑しみを纏わせていた。
 実は大人世界もこのころどん詰まり。その雰囲気は貧血少年の父子家庭、吉田少年の母子家庭、相原少女の家なき子の相に映し込まれている。俺たちだってどうなっちゃうかわかんねーよなー、と思いつつ、いや、すでにもうわかんなくなってるかと相原少女を間において思うのだろうか。何にせよ大人の差し出口がないだけましかも知れない。それとも第三者委員会の審問でも欲しくなる頃合いなのだろうか。
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