さりさり

海の上のピアニストのさりさりのレビュー・感想・評価

海の上のピアニスト(1998年製作の映画)
4.2
お堅いヒューマンドラマなのかと思って観始めたのだが、途中で気づいた。
これは美しいファンタジーだと。
一生を船の中で過ごし、頑なに陸に降り立とうとしなかった男の物語。

豪華客船の中で産み落とされ、そのまま孤児となってしまった赤ちゃん。
新世紀に生まれたのにちなんで “1900(ナインティーン・ハンドレット)” と名付けられ、乗組員たちに大切に育てられる。
船の中での世界しか知らない1900は、誰から教わるわけなでもなく、ある日突然、ピアノの才能に目覚める。
なんの迷いもなく、悠々とピアノを弾き始めるのだ。
天才とはこういう人のことを言うのだろう。
天才というより、神に近い。
彼の弾くピアノの音色は。

本当の両親を知らない1900。
母の愛情を知らない1900。
もしかしたら彼にとって、この船こそが「母」だったのかもしれない。
いつでも陸の世界に飛び出せる時はあった。
でもどうしても羽ばたけなかったのは、きっとこの優しい「母」の中で、ずっと守られていたかったからかな、とも思った。
「母」の胸に抱かれながら、波に揺られ子守唄を聴くように。

魂の籠った彼の演奏は圧巻だ。
88の限られた鍵盤が、彼の無限の可能性を引き出す。
だからこそ、だからこそだ。
ラストの1900の語りがあまりにも哀しい。
自分だけの世界でしか生きることが出来なかった彼の孤独が、たまらなく切ない。

心に残るファンタジー。
秀作だがとても哀しい。
さりさり

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