星降る夜にあの場所で

サクリファイスの星降る夜にあの場所でのネタバレレビュー・内容・結末

サクリファイス(1986年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

ド傑作☆

「アンドレイ・ルブリョフ」と迷いに迷ったが、タルコフスキーはこの作品をノミネートしたい。

以下の文章は抽象的に感じてしまう箇所があるかもしれないので、既に鑑賞された方以外は時間の無駄になる可能性が高いのでお薦めできません^_^;

小4の時、時間が経つと忘れてしまう夢を勿体ないと思い、枕元にノートと鉛筆を置いて見た夢を書き留めていたことがあった。
春先に始めた夢日記は、その年のクリスマス・イヴの朝に終焉を迎えることになる。
真夜中にクリスマスプレゼントを枕元に置こうとした母に見つかってしまったからだ。
「こんなキチガイみたいなこと書くのは止めなさい!」
学校には友達も沢山いたし毎日が楽しくて仕方がなかったのだが、何かいつも心の奥に意味不明な満たされない充足感を抱えていた。
単に忘れてしまうのが勿体ないと感じて始めたことが、私の中の違和感に潤いを与えてくれようとは夢にも思わなかった。
学校から帰ってくると、ランドセルを置いて、遊びに行き、晩御飯を食べ、風呂に入って今朝メモった走り書きを絵にしてみる。
子供なので、大人が見る夢以上にメチャクチャな内容ではあったが、その内容が楽しかろうが悲しかろうが怖かろうが…宿題そっちのけで書いていた。

くだらない前置きをダラダラと書いてしまいましたが、その時間私は確かに過ぎ去った夢と現実との狭間をフワフワと泳ぐように浮遊していた。
この10ヶ月の記憶はは、数十年たった今でも私の阿頼耶識の中に蓄積されている一片のイメージとして残っていたのだった。
私は途中から本作を突如甦ったそのイメージと共に目と耳で追いかけながら作品を鑑賞していた。
当然、そのイメージの中の私は子供なので、バッハが、ダ・ヴィンチが、ニーチェが、シェークスピアが…世界にもたらした功績など知る由もない。
それでもすんなりとタルコフスキーのイメージと同化することが出来た。
あくまでもイメージのなかであり、理解や解釈とは次元の違うところで…
あのカットが意味するものは?あのエピソードを語った理由は?などとは一切考えずにエンドロールを迎えた。
そして、この作品が監督自身の息子に捧げられた作品であったことを知り、食事と簡単な買い物をすませてその日のうちに再び劇場へ足を運ぶ。

今度は、この中で語られる言葉を自身の父親の遺言(当時は健在)であると自分に言って聞かせながら可能な限りの咀嚼を試みながらの鑑賞。
表面的には尺八の音楽と主人公が最後に来ていた衣服などからしか東洋文化を感じず、西洋的な芸術・哲学・宗教などの雰囲気に包まれているように見えるが、今回30年ぶりに再鑑賞してみて、初見から数年後に知人の僧侶から学ばせて頂いた大乗仏教の思想に半分はなぞらえることも出来ると思った。
言葉には限界や弊害や束縛があり、名義相互客塵性でしかない。
正に初見の際、浮かび上がってきた私の小4のイメージはタルコフスキーによって誘発された依他起性。
タルコフスキーが映し出す映像は高尚なものなのかもしれないが、私が(私たちが)少年(少年・少女)の頃に夢見た映像がそれに劣るということでは決してないと思う。
老若男女を問わず、私たちは一人一宇宙に住んでいるのだから、そこに優劣は存在しない。
だから、感覚的に訪れた私のイメージが、彼のイメージと同化したとしてもなんら不思議はない(主人公とその妻の関係が、私の両親の関係と酷似していたこともにも起因する)。
もうこの時点で個人的には奇跡的な作品であったのですが、本作に限らずスクリーン(テレビやPCの画面)に映し出されている全ての映像は心の中で作り出した映像にすぎず、実際には存在しない。
本作を観て、それは人間の中にある執着によって見えているだけであるという唯識の考え方をイメージすることもできた。
タルコフスキーという人は、東洋文化だけでなく仏教にまで精通していたのだろうか?そういう意味において衝撃的な作品だった。
また、雄弁な独り言を懐古で終わらせず回顧からの内省へと昇華させていく術も学ぶことができた。
子供が父へのバースデープレゼントとして作った家のミニチュアが映し出されるまでのカメラワークを見て、私たちがカメラを持ってもっともっと引いて行けば、私たちが観ている映像の手前に存在していたタルコフスキーを映し出すことが出来るかもしれない。
ただ悲しいことに私たちは、初めから存在するもの意味をなすものからも真理や真実を見つけることなどできない。
それでも、例えそれが幻想であるとわかっていても、見えないものを見ようとする欲求の呪縛から逃れれることは出来ないのだから、郵便屋さんが言っていた永劫回帰を信じて前向きに生きて死んでいくしかないのだろう。
スピリチュアルな外からの視線に見守られながら…

☆★☆フィリッパ・フランセーン☆★☆
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