鹿山

地獄の黙示録・特別完全版の鹿山のレビュー・感想・評価

地獄の黙示録・特別完全版(2001年製作の映画)
4.5
あの名作映画『ゴッドファーザー』シリーズを手掛けた監督による作品とはとても思えない。
儚く叙情的な人間ドラマを描くのに誰よりも秀でた作家が、3時間に渡って戦争の不条理さとアメリカ合衆国の欺瞞に真正面から対峙している。その事実だけでとにかく胸が痛い。

戦争映画の定番である銃撃シーンも豊富なのだが、物理的な快感/不快感よりも、「大義」を手にした人間の暴力性と戦争の無意味さを強調する。
登場人物も大半は戦禍に毒されて完全におかしくなってしまっている。人間の愚かさと身勝手さが暴走する様は一種シリアスギャグとしても鑑賞可能なのだけれど、僕は笑えなかったな。こんなに無意味さで塗り固められた環境に長居していれば、どうかしてしまうのは当然だ。

軍服の緑色、泥濘んだ土の茶色、コンクリートや川の灰色、銃やヘリコプターの黒。
金かかってそうな割にまずそうな飯。あっけなく訪れる人間の死。
妙にダラダラとした中盤のテンポ感。一切わけの分からない終盤。
コッポラ監督にかかれば、戦争という題材をいくらでも「面白い」作品に昇華できるはずなのに、あらゆるカタルシスを放棄してしまっている。
いや、「つまらない」作品でいい。「つまらない」ことに意義がある。

この映画は、恐怖や悲哀という一面的な感情を拒絶する。
虚無。ただひたすらに虚無。虚無を虚無のまま描くことに成功した他に類を見ない怪作だ。
こんな作品を作っていたら制作側も精神的に壊れるだろうと思っていたら、やはりコッポラ監督自身も「作品テーマが自分でも分からなくなってしまった」とのこと。何よりも狂っているのは世界だ。
鹿山

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