ちろる

一人息子のちろるのレビュー・感想・評価

一人息子(1936年製作の映画)
4.0
「なぁ母やん、おらきっと偉くなる。」
その言葉を胸に、寂しくて張り裂けそうな思いを押し殺す母やんの涙は切ない。

小津安二郎の初期の方からお馴染みの女優、飯田蝶子さんですが、彼女の魅力が光るのは、これと、「長屋紳士録」だと思う。
あのお顔がいいのよ。

なかなか連絡の取れぬ時代もせいもあるだろうが、学校に行かせて距離が遠くなってきただけではなくて、知らぬ間に嫁と子どもまで子どもまでこさえても事後報告とはなんとも寂しい。
親子離れ離れになるきっかけとなった、凛とした笠智衆さん演じる大久保先生の描写も、かつての雰囲気から打って変わり無精髭耕したヘラヘラした感じがなんとも東京の厳しさを語っていてシュールだ。
因みに奥さん役の人の足袋の裏が薄汚れてるのも芸が細かすぎて好き。

夜学の教師の事をなんでそんなに親のガッカリする職業なのかがちょっとよく分かんないけど、寂しい思いずっと我慢し続け、愛する息子の幸せな人生を願ってい続けた挙句の
「東京なんか出てくるんじゃなかった。」
はちょっと残酷すぎる。
『親の心子知らず』

なかなか思うように翔けなくて、東京で頑張るのはどうせこんなもんなんだよと諦め気味の息子の言い分も分かるし、逆にこんなに我慢して耐えたんだからなんとか出世してほしいと願う母やんの気持ちも理解できる。

互いに埋められぬ親子の穴が、共にいればいるほど深くなり、そんな穴を修復するのが、意外と血の繋がらない赤の他人の存在だったりするのは世の常。
今はほぼなき長屋作りの温かみが染みてきた。

ずっと、ずっと不穏な感じでやな予感しかしなかったけど意外な展開。
「長屋紳士録」に続いてまた飯田蝶子さんに泣かされちゃったじゃんか。

単なる母と息子のハートフルストーリーにしないで、製糸工場の裏のシーンで余韻を残したのがなんとも素晴らしかった。
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