うーら

青いパパイヤの香りのうーらのレビュー・感想・評価

青いパパイヤの香り(1993年製作の映画)
4.2
トラン・アン・ユン監督のデビュー作。

監督のプロフィールがベトナム系フランス人となっているのは、10代の初期までベトナムで過ごし、戦争から逃れるためにフランスへ渡ったからだそうで、この作品は幼い頃過ごしたベトナムの記憶を思い出しながら作った作品なのだとか。

主人公は10歳の少女ムイ。
簡単にいうと、ムイが成長し幸せを掴むまでを描いた話なのだが、
底辺から這い上がるために誰かを蹴落としてきたとか、いじめがあったとか、ストーリー自体に大きな抑揚があるわけではない。

前半は使用人として住み込みで働いている資産家の家が舞台。
要は丁稚奉公なのだけど、いわゆる「おしん」のような悲壮感はまったくなく、雇い主の奥様も先輩使用人も皆親切で、ムイはキラキラと働いている。

ムイがソムタムを作っているシーンがあるが、青パパイヤのシャキシャキした食感がまだ幼いムイを表していているとしたら、ラストで黄色のワンピースを着たムイは甘く熟れたパパイヤなのだろう。成長を遂げたムイは仕草も視線も女性らしさの塊で釘付けになった。

音や光の強弱と色のコントラスト、そして表情でも巧みに感情を表現していて、最小限に抑えたセリフがそれらを効果的に映している。

色彩はフランス映画とよく似ているなあと思ったが、それもそのはず、ベトナムは戦後の混乱でスタッフが揃わず、フランスでセットを組んで撮影したのだとか。
パリの雨とは違う東南アジアの湿度をセットでここまで表現してしまうとは。。。

ピアノの音色の後ろにすら常に虫の音が聞こえている様も、昭和の日本やアジアを想起させるし、五感をフルに使って鑑賞できる素晴らしい作品だった。

ボーッとしながら眺めているだけでも満足できる作品だと思う。