不在

トスカーナの贋作の不在のレビュー・感想・評価

トスカーナの贋作(2010年製作の映画)
3.6
上野の国立西洋美術館の入口に、ロダンの彫刻がいくつかある。
こういった像は、彫刻家が造った原型に、別の職人がブロンズを流し込んで鋳造しており、『地獄の門』に至っては世界に7体も存在する。
そしてその全てがレプリカではなく、"本物"とされている。
絵画においては、作品をトレースしたり、完璧に模写したとしても、あくまでそれはレプリカであり、贋作だ。
鋳造とトレースの違いとは一体何だろうか。
そもそも本物にこそ価値があり、偽物は無価値であるというのは事実なのだろうか。

キアロスタミはこれまで、偽物のドキュメンタリー映画を撮り続けてきた。
それらはいわばフェイク、贋作だが、本当に価値のないものだろうか。
もしそうならば真に価値のある映画とは、完全なリアリティに基づいた、正しい文脈を持つものだけという事になり、それが間違いであるのは、誰もが知るところだろう。

大富豪の豪邸に掛かっている絵画が、どこかチープに見える事があるが、それはその富豪が作品の持つ本当の価値ではなく、本物か偽物かという事実にばかり注目しているからだろう。
真実がなんであれ、自分が胸を張って本物だと言える物にこそ真の価値は宿るという事を、この監督は証明し続けたのだ。
不在

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