不在

欲望のあいまいな対象の不在のレビュー・感想・評価

欲望のあいまいな対象(1977年製作の映画)
4.4
同じ女性を二人の女優が演じることで、主人公である年老いた男が女性を欲望の対象としてしか見ていないということを見事に表現しているが、それよりもこの女はブニュエルが考える、現代の宗教の姿なのではないだろうか。
彼女は金が目的ではないと口にしながら金を求め、愛をあげると言いながらそれを拒む。
男がどれだけ尽くそうとも、本当の救いを与えることはない。
この男の狂った欲望は、やがて暴力へと行き着く。
これは本作における、国家や政治と癒着した宗教に対するテロ行為とも重なって見える。
しかしどんなに酷い仕打ちを受けても、老人はこの女から離れることができない。
そしていくら殴られようとも、彼女が老人の元を去ることもないのだ。
恐ろしく歪んだ共依存の末に待ち受けるものをはっきりと提示して、映画は終わりを迎える。
ブニュエルは無神論者でありながら、あのカール・テオドア・ドライヤーと同じことを論じようとしている。
人間は神の言葉を歪め、正しい信仰を失った。
それを裁くのは、一体誰なのか……。
不在

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