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トスカーナの贋作のakrutmのレビュー・感想・評価

トスカーナの贋作(2010年製作の映画)
4.1
「Certified copy」という本の著者であるジェームズと、そのイタリア語翻訳版の出版記念講演を聞きに来た古物商の女性が、散策の途中で立ち寄ったカフェで夫婦と間違われたことをきっかけに、結婚15年の夫婦を演じていくという物語で、映画のほとんどは二人の会話で構成されている。映画が進むにつれて、夫婦のフリ(偽物=贋作)なのか本当の夫婦なのか(本物=真作)が次第に曖昧になっていき、見る側は絶えず解釈を迫られる点が、本作の醍醐味である。

一般的にはこのように本作は紹介されるが、実際には別の解釈も可能であるし、個人的にはそのほうが腑に落ちる。原題の Copie conforme には陽に「贋作」という意味はなく、むしろ「複製・コピー」という側面が強調される。つまり、二人のやり取りで表現されているのは、何かの複製であるという見方である。では、映画で描かれている二人の擬似的な関係が複製だとすると、複製元のオリジナルは一体何であろうか?それを考えると、本作品の二人の本当の関係がとても良く理解できる。

このような難しい(でも、ある意味でシンプルな)役柄を演じたジュリエット・ビノシュはもちろんさすがであるが、俳優としては素人であるオペラ歌手のウィリアム・シメルの演技が素晴らしいの一言である。最初に見たときには、実力派の俳優かと思ってしまった。素人を多用するアッバス・キアロスタミ監督ならではの配役であるし、ここまでの演技をさせる監督の手腕にも脱帽である。映画に出てくるトスカーナの風景も美しいので、どんどん変わっていく二人の会話と合わせて、見て損はない映画だと言える。
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