ボブおじさん

出来ごころのボブおじさんのレビュー・感想・評価

出来ごころ(1933年製作の映画)
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昨日、話題のインド映画「エンドロールのつづき」を見てきたら劇中で世界の偉大な映画監督にリスペクトを捧げる場面で、小津の名前が出てきた。時代や国を越えて今なお多くの観客と映画人に愛される小津映画、改めてその影響力の大きさを実感した。

本作は坂本武が演じる喜八という中年男を主人公とした「喜八シリーズ」の第一弾。小津安二郎が自らの原案を監督した。ちなみに喜八のキャラクターは、後の「男はつらいよ」シリーズの寅さんの原点とも言われている。

喜八は、一人息子の富夫と裏長屋で二人暮らし。長屋の隣には、同じビール工場に勤める若者次郎が住んでいた。気の合う二人は今夜も富夫を連れて場末の小屋に浪花節を聞きに行ったのだが、ここで失業して泊まる宿もなく困っている若い女性を大衆食堂に世話してあげる。

案の定、喜八はこの若い女性に年甲斐もなく惚れて食堂に入りびたり、近所の噂になっていく…。
ね!寅さんみたいでしょ😊

その後の展開も含めてこの映画が寅さんのキャラクターに影響を与えたことは間違いないだろう。若い女の伏見信子は、憂を含んだ風情に目もとはパッチリの今でもいそうな可憐な佇まい。

まるで落語の人情噺のように軽快で歯切れのいい語り口の松田春翠の活弁で観ると、90年前の映画とはとても思えない。

撮影当時小津はまだ20代だが、下町の庶民の助け合いという古風な主題を、粋とユーモアと江戸前の心意気で実に鮮やかに描き上げている。

90年前の映画にて点数は割愛する。