月うさぎ

惑星ソラリスの月うさぎのレビュー・感想・評価

惑星ソラリス(1972年製作の映画)
3.8
難解な映画で知られるロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキー氏の1972年の作品
SF映画の知る人ぞ知る名作として私も名前だけは知っていました。
恵比寿ガーデンシネマでの上映を狙って観賞。
坂本龍一氏がセレクトした名作映画を、音にこだわった“ムジークエレクトロニクガイザイン”のスピーカーで爆音上映する“commmons10 健康音楽”という特別企画でした。
映画の前に坂本さんの「レクチャー」があって、それがあるのとないのと映画の見どころが随分変わっていただろうな。感謝。

ストーリーよりも表現スタイルやテーマや雰囲気がいい作品だと思います。
音楽の使い方だけではなく雷鳴や水の音などの効果音も際立っています。
龍一さんが「スピーカー」にこだわったのもそのためでしょう。
一時も制止することなく静かながら動いている画面。
当時画期的だったという無重力シーンも印象的。

一方、原作ファン及び原作者はこの映画には不満を持つかもしれません。
今の私達には想像しにくいものですが、ソ連の70年代のお国事情、文化や宗教に対する締め付けや検閲の厳しさも、原作を描く動機の一つだったことを考えると、ひょっとしたらテーマが逆方向に行っているのかもしれないとさえ思えます。
(原作も読まないとこれ以上は語れませんが)
タルコフスキー監督はSFを愛していません。
ドン・キホーテのイメージも原作にはないのではないかしら?
父と息子、母と息子の関係性などもどうやら映画でだけ強調されているらしい。
核兵器の位置づけなども危なっかしい印象を持ちました

「SF」の名作映画と言ってしまってはいけないような気がしました。

なんといったらいいのか…SFの世界観を実現していないのです。
雰囲気だけというか。

SFというのは本来、構築された別世界の定義があるものなのです。
それが前提で最低限の条件です。
そこをあえてないがしろにするというかあいまいなままにして幻想に逃げてしまっています。
女性は綺麗でよかったですが、恋愛ものとしても説明不足で、感動できる結末ではないですし。

惑星ソラリスの知性とは何だったのか?
地球や人類への意思表示は結局あったのか?
主人公のあのラストは幸せな結末だったのか?
そもそも何が起こったのか?

それは勝手に鑑賞者が考えろというタイプの映画ですね。

まあ、映画の楽しみ方はいろいろありますから
それでも面白かったからいいんですけれども。
もう一回観直したいなという思いもあります
なんだか心に残って忘れ難い映画なんです
とても不思議。

なんとなく不安定でどことなく美しくて、内省的で哲学的で音楽的で
ちょっとだけホラーで。
そういう映画がお好きな方にお勧めです。
月うさぎ

月うさぎ