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許されざる者のtakのレビュー・感想・評価

許されざる者(1959年製作の映画)
3.5
映画に夢中になり始めた頃から、オードリー・ヘプバーン主演作が観られるチャンスは逃さないようにしてきたつもりだ。しかもけっこう映画館で観ている。「ローマの休日」以降の主演作は鑑賞困難な晩年の作品を除くと、あと2本観ればとりあえず完走。今回はその一つ、「許されざる者」に挑むの巻。オードリー出演作の中でも異色な西部劇。しかも監督は男臭い映画の多いジョン・ヒューストン。

オードリーが演ずるのは、牧場を営むザカリー一家に赤ん坊の頃もらわれてきた娘レイチェル。バート・ランカスター演ずるベンら3兄弟、彼らの母マチルダとも仲良く暮らしていた。ある日、レイチェル出生の秘密を知る男がサーベルを片手に現れ、彼女が先住民であると吹聴して回った。先住民カイオワ族が彼女を求めて現れ、彼女に求婚した若者が先住民に殺される事件が起こる。町の人々はレイチェルを追い出せと騒ぎ出すが、ザカリー一家はこれを拒否。家に立てこもって襲ってくるカイオワ族と戦うことを決意する。

ハリウッド製西部劇で先住民は悪役。盛んに制作された当時は今のような人権意識も配慮もない。スッキリしない結末、吹聴してまわる老人を寄ってたかって悪者扱いする場面、先住民に敵意剥き出し、レイチェルがカイオワ族の娘だと知って背を向ける人々の冷酷さ。ザカリー一家の結束も崩れそうになる。オードリー主演作でこんなに胸糞悪い映画は他にない。

だが、先住民への差別描写が当たり前の時代に、差別される側の娘をスター女優が演じることに意義があったとも思う。オードリーがこの映画に出演することで、こうした悲劇や差別に観客が目を向けるきっかけにはなったはずだ。

ジョン・ヒューストン監督が本作の後に撮るのが、同じくトップスターで対極の魅力を持つマリリン・モンローを起用した「荒馬と女」であるのも興味深いところ。

母親を演ずるリリアン・ギッシュが素晴らしい。僕はサイレント映画の名花と讃えられた若い頃と、最晩年の「八月の鯨」くらいしか出演作を観ていない。おそらく同世代はみんなそうだと思う。本作で見せる気丈な母親像と、娘同様に育てたレイチェルへの思いはこの映画の感動ポイント。この熱演の前には、屈強なバート・ランカスターの魅力も、トップスターとしてのオードリーも霞んでしまう。また、サーベルを持った老人を演ずるのが、この後「007」第1作で悪役ドクターノオを演ずるジョセフ・ワイズマンであることもお見逃しなく。

先住民を悪役としているのは当時の西部劇としては普通だが、差別感情が生む悲劇を描いていることは当時としては違った視点。そこはよいけれど、死体だらけのラストシーンはやっぱり観ていて辛い。

最後に残ったまだ観ていないオードリー主演作。近いうちに挑みたいと思いまする。
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