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櫛のTnTのレビュー・感想・評価

(1990年製作の映画)
4.4
今までとはうってかわって夢であることが明確になった幻想世界の物語である。
寝ている女の夢の話。「城は私のものだ!」というどこからか聞こえる男の声から始まる物語。モノクロの現実に対して夢の世界は秋の暁で真っ赤に燃える。前作「スティル・ナハト寸劇」にも出てきた人形が登場する。その人形の手は自ら意思を持つかのように人形から離脱し、浮遊する。今作品もまた物語という物語のないものである。ただ、夢の中の世界と現実の世界は奇妙にシンクロしている。例えば指の動きや光の揺らめき、そして物の落下などがお互いに共鳴しあっているかのようだ。面白いのが、どちらかがどちらかに起因しているのかがわからないのだ。また、音も現実のものなのか夢のものなのかわからない。つまり、夢も現実も同等に扱われているのだ。

こちらの作品も確か実物を見たことがあるが、奥行きは実はないのだ。背景に広がるように見えているのは錯覚で本当は壁に近かったはずである。また梯子のパースも狂っている。夢の世界は歪んでいる。

切り取られ浮遊する手首。ある心理学の研究では、人は腕を切断されたとき、切り離された向こうの腕にも痛みを感じるという。この浮遊する手首もそうであるのだろうか?人間、特に手にはそうした神秘的な感覚を感じるものなのかもしれない。

「人形たちといられたらいいのに」という女の声。これはクエイ兄弟の考えそのものであるのだろうなと思う。クエイ兄弟は、彼ら人形を人と同じぐらい愛しているのだろう。でなきゃこんな作品できない。改めてこれがストップモーションアニメであることに感心した。
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