デニロ

西鶴一代女のデニロのレビュー・感想・評価

西鶴一代女(1952年製作の映画)
3.5
1952年製作公開。原作井原西鶴。脚色依田義賢。監督溝口健二。

溝口健二が『武蔵野夫人』に次いで監督した作品。『武蔵野夫人』の田中絹代は夫森雅之と上手くいっていないことに、お前の手練手管が足らんのではないか、と父親に叱られる。あからさまだなあ。その前の『雪夫人絵図』の木暮実千代は、モラルハラスメント亭主の愛戯に絡めとられ、別れたい、でも、あの悦びは何物にも代えがたい、とカラダが夫の寝所に勝手に向かってしまうそんな女性だった。が、しかし本作の田中絹代は男を引き寄せる。武家の娘として御所に勤めている際には他家の若党三船敏郎に言い寄られるも端は相手にせず。然るに三船敏郎の再三にわたる求愛にいつしか相思相愛となり密会に至る。密会の場を役人に見咎められ三船は斬首、絹代一家は京所払い。

その後、呉服屋進藤英太郎の斡旋で松平家の側室となりお世継ぎを産む。殿様の寵愛を受け順風満帆となるのかと思っていたら、本妻、側近から、毎夜毎夜のお運びが過ぎるのではあるまいか。差し障りが出る前に遠ざけよう、とお役御免になるのです。はした金の5両で実家に戻されるや娘の出世で商売を目論んでいた父菅井一郎は当てが外れ、ええい、と田中絹代を遊女として島原に売り飛ばす。頑張り屋の彼女は太夫となりお大尽から身請けの話も出るが、そのお大尽は贋金づくりで御用となる。新藤英太郎の家に行くことになり健気に働きだすが、当初はその健気さが奥様沢村貞子に気に入られ、お前は何もしなくていい、ただ私の髪だけを結っておくれでないか。実は、奥様の髪は付け毛だったのです。秘密を共有して睦まじくしておりましたが、そのうちに奥様は田中絹代の過去の噂を聞くに及び、もしやすると旦那様との中もそんなところからと、そんな彼女の悋気に触れ、お前のその美しい髪が憎いと無体にも髪を切り取られてしまう。もはやド根性が根についている田中絹代はそんな事ではメゲません。夫婦の寝所に猫を忍ばせ沢村貞子の付け毛を噛み取らせ、秘密をばらすしっぺ返しを致します。

そんな田中絹代を見初める扇屋宇野重吉に嫁ぐことになり、小さなお店切り盛りするおかみさんになり、これがしあわせだとしみじみしていると、夫が戸板に乗せられて戻ってくる。夜陰物取りに襲われたのだという。

宇野重吉の親戚に店を取られ一文無しで追い出されるや、無常感に苛まれた田中絹代は尼寺に身を寄せる。が、そこにも男が現れ犯されているところを庵主に見咎められ、やはりお前は性悪と、追い出され。

そんなこんなの生き地獄が映し出されます。

お話はそんなものなのですが装置、装飾、衣装の美術が美しい。あれらは今どこに行ってしまったんだろうか。

さて、三船敏郎が大きく出ていたのでどんな役なのかと思っていたらあっという間に処罰されてしまった。

神保町シアター 女優魂――忘れられない「この1本」(田中絹代)
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