こたつむり

告発のこたつむりのレビュー・感想・評価

告発(1995年製作の映画)
3.9
堅牢で“脱出不可能”と言われたアルカトラズ連邦刑務所で脱獄を企てたために、長期間(1000日間)に亘って地下牢に閉じ込められた囚人《ヘンリー》の物語。

排泄物が垂れ流された部屋に置かれた食事。
着るものもなく、石畳の上が寝床。
そして、何よりも“光”が届かず、明日に“希望”を抱くことが出来ない現実。これらが全て「事実である」と告げられる冒頭。

そして、ある事件をきっかけに。
ヘンリーは地下牢から出て、光を浴びることになりますが…それでも続くツラい場面。

彼と娼婦が絡み合う場面は胸が張り裂けそうになりますし…収監に至るまでの境遇を知ったときはガツンと殴られたような衝撃がありますし…そして、何よりも。思考停止を望むに至る心理…その悲し過ぎる慟哭が、一番衝撃的でした。観ている側も思考停止したくなるほどに。

それは製作者側も承知だったのでしょう。
鉛のように沈鬱な澱を溶かすように。
主人公は、囚人であるヘンリーではなく、彼の弁護士となる《スタンフィル》としたのです。そして、彼の“熱い志”が前面に出ているからこそ。ギリギリの線で“映画”になっていました。音楽が前面に出過ぎなのも同じ理由なのでしょうね。風通しを少しでも良くしようとしたのでしょう。

ただ、それでも。
“事実”に対して“脚色”が敵うはずもなく。
「軽くしよう。盛り上げよう」と演出を重ねるたびに、悲壮感は増していく一方。

そして、皮肉にも。
ヘンリーがスタンフィルに叫んだ“言葉”。

その“言葉”に対して、本作は返答できなかった…と僕は思いました。だから、終盤の展開に強引さを感じましたし、着地点に首を捻らざるを得ないのです。やはり、息を呑むほどに苛烈な題材を手掛けるならば、作り手側も内臓を全てさらけ出すくらいの覚悟がいるのでしょう。そして、それが“事実”に対して敬意を示す唯一の方法なのだと思います。

まあ、そんなわけで。
法廷劇として考えると物足りない部分がありますが、扱われた題材は地の底に堕ちるほどに沈鬱。気軽に臨めない作品だと思いますので、心身ともに健康なときの鑑賞をお薦めします。

…でも、ひとつだけ疑問が。
本作の“事実”。
どこまでが“事実”なのでしょうかね…。
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