いしはらしんすけ

FAKEのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

FAKE(2016年製作の映画)
4.5
2014年、ゴーストライター騒動でメディアを賑わせた作曲家・佐村河内守に密着したドキュメンタリー映画。

今となってはすっかり風化した感のあるこの騒動だが本作の面白さ自体は公開当時から些かも減じていませんでした。

森達也作品に通底するメディア不信は正義の名の下に暴走する報道に止まらず「とにかく話題になりゃOK」な週刊誌やワイドショー、そしてバラエティ番組にまで敷衍して描写。

そこを基点にこのメディアの有り様が我が国の人権意識の低さを裏打ちしていると思わされるのは、アメリカのメディアによる終始理性的で論理的な鬼詰めインタビューとの対比に依るのでしょう。

そしてそんなメディアに振り回される佐村河内氏、彼と対比した存在である新垣隆の姿には昔から現在まで常に根深く潜む承認欲求の問題が端的に示されていて暗澹。

この両者と森監督自身を含むメディア関係者が纏う「嘘」にまつわるあれこれはある種哲学的な問いを孕んでいる一方、まるで信頼できない語り手によるミステリみたいなエンタメ感もあって、どっちにしろ深読みや邪推すればするほど楽しめるというね。

特にベランダ行くたびにハラハラするよねぇ...という底意地悪い私のような人にはずっと面白い、フィクションとノンフィクションのあわいを堪能できる傑作です。