耶馬英彦

ある秘密の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

ある秘密(2007年製作の映画)
3.5
 2007年のフランス映画だ。セシル・ド・フランスはまだ若くて美しい。女の情念と欲望が全開のシーンがあって、思わず息を呑んだ。マキシムを激しく誘うシーンだ。ほんの数秒間だが、凄い演技だった。

 第二次大戦時にフランスのユダヤ人がどのように生きたのか、マキシムとタニアの運命は戦争によって大きく歪められた。冒頭ではマキシムとタニアは夫婦となっているが、そこに至るまでの波乱万丈の展開に、少し驚かされた。
 女の恋は上書き保存、男の恋は名前をつけて保存、などと巷で言われているが、本作品はまさにその通りで、マキシムは過去の愛にいつまでも引きずられる。対してタニアは過去を忘れて現在を生きる。
 語り手でもあるタニアの息子フランソワにも妻と娘がいて、愛の物語は連綿と続いていく。厳しかった父マキシムの心の闇は、熊のぬいぐるみに象徴されて、フランソワの記憶の中にいつまでも消えない。

 中原中也は「かくは悲しく生きん世に」と嘆いたが、その嘆きは人類に共通する。本作品は煩悩に苦しみながら生きることを半ば肯定し、煩悩以外で苦しめられる戦争を半ば否定する。全否定でないのは、戦争も人間のすることだからだ。
耶馬英彦

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