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インド行きの船のBONのレビュー・感想・評価

インド行きの船(1947年製作の映画)
3.5
ベルイマン作品鑑賞26作目。ベルイマン特有のスタイルとテーマが既に見受けられた彼の3作目にあたる長編映画。フィンランドの劇作家マッティン・セーデルイェルムの同名戯曲の映画化。同年のカンヌ国際映画祭上映作品。

「『インド行きの船 』を完成させた時、私は幸福感に満ちた壮大な感覚にとらわれた。私はフランスのアイドルたちと肩を並べるほどの腕前だと思っていた」 と自叙伝『Bilder』で語られている。

「せむし男の航海士が、父である船長と美しい吟遊詩人の寵愛を争う」というコピー。7年間の航海を終えて故郷に戻った少し背が曲がった青年、鬼畜じみた青年の父親、父親の愛人であり息子のガールフレンドの三角関係を描く愛と苦悩に満ちた物語。本作の大半は7年前のフラッシュバックの構成となり、父親の暴君ぶりが描かれる。

絶望で自閉的になったガールフレンドを必死に救おうとする息子。愛人と外国に行こうと思っていることを母親に淡々と告げるやがて失明する父親。母親は父親の失明を待っている。という全ての人の目論見が交差する。

ラストシーンで父親が息子へ空気を送っていたポンプを止めて殺そうとしてしまうシーンが恐ろしく映像も狂気に満ちていて素晴らしい影の使い方だった。

ベルイマン初期の若い男女の背中を後押しするかのような調和したメロドラマと、彼が長きに渡って描き続けた父親との確執が既に存在していた。また、何より彼のフィルモグラフィー全体に通じるスウェーデンの透き通るような光と影の映像の美しさと構図に目が釘付けな作品だった。

以下ちょっとしたベルイマン2作目の自叙伝『Bilder』からの小話。当時29歳のベルイマンは完成した本作を異常なまでに誇りに思っていたらしいが、作品をプロデューサーがカンヌに持って行ったところ、あまりにもつまらないからフィルムを最低でも400mカットしなければらならないと言われ、1メートル1メートルを愛していた彼は悲しんだらしい。

スウェーデンのプレミア上映では、上映中に音に不具合があることが判明しエンジンルームの扉を叩いたものの、入れず扉の外で吠えて泣いたベルイマン。その後落胆し飲みに出かけ、会話の一言も覚えていない程酔っ払い、新聞配達人に踏まれて目が覚め、朝刊には映画の恐ろしい処刑が載っていて地獄のような顔をしたそう。ベルイマンの作風から彼は寡黙でクールな人だと思っていましたが熱い人だったんだなと思いさらに好きになった。
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