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彼岸花のakrutmのレビュー・感想・評価

彼岸花(1958年製作の映画)
4.5
年頃の女性の結婚や恋愛に関して、他人の娘に対しては物分りが良いが自分の娘に対しては厳しいという、どこにでもいそうな中年男性を描いた、小津安二郎監督初のカラー映画。里見弴の原作を元に、野田高梧と共同で脚本を書いていて、2年後に公開された『秋日和』もこの組み合わせで製作されている。『彼岸花』というタイトルからもわかるように、赤色にこだわってアグフア社のカラーフィルムを選んだそうである。映画の中でも、やかん、テーブル、帯とかいろいろな部分に赤が使われている。そういう点に注目して観るのもひとつの楽しみ方であろう。

この当時の、身元がしっかりしていて安心できる男性と見合いで結婚するのが望ましいという、やや古くなりつつある結婚に対する年配の人々の価値観と、自由恋愛による結婚(や未婚のまま生きる)という若い世代の価値観の対立や、それに関して個人が抱く本音と建前(人間の持つ矛盾した心とか、価値観と自意識の対立とも言える)が、ある会社の常務である男性と3人の若い女性の物語を通じて描かれている。今では後者の価値観が当たり前になっているけれど、娘の幸せを願う親の立場からすると、前者の価値観も十分に理解はできる。もちろん本人の意思が一番なのであるが。

3人の年頃の女性を演じる、有馬稲子、山本富士子、久我美子という組み合わせはなかなか豪華。特に、初代ミス日本である山本富士子が可愛らしくて印象的である。大映に所属していた彼女を起用する際にカラーで撮って欲しいという要望があったために、小津監督は初めてカラーで撮ったというだけの価値はあったと思う。その他にも、若い頃は小津映画のヒロインとして活躍した田中絹代や、本作の2年後に大島渚監督の『青春残酷物語』で自分を痛めつけるように堕ちてゆく女性を演じて注目されることになる桑野みゆきなどの脇役も好演している。娘や年頃の女性の結婚が中心テーマであるが、この二人の演技を通じて家族の絆とか、娘を嫁に出す夫婦の感傷なども、映画の所々で感じることができる。特に、田中絹代が夫役の佐分利信に言った戦時中に防空壕に避難したときが懐かしいという言葉は、とても印象に残った。
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