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ハート・ロッカーのひのネタバレレビュー・内容・結末

ハート・ロッカー(2008年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

“War is a drug.”

2004年、イラク。
殉職した班長に代わってブラボー中隊へと派遣されてきた、ウィリアム・ジェームズ軍曹。彼は爆弾解体処理の技術や軍人としての能力には優れているが、スタンドプレーが目立ち、命知らずな振る舞いをする問題行動ばかりの人間であった。任務終了まであと38日──周囲はジェームズに不満や疑念を抱きながら、EODとしての仕事をこなしていくが……

ハートロッカー、米軍のスラングで「極限まで追い詰められた状態」「棺桶」を意味する言葉です。
決して歓迎されることのない、鬱屈とした環境。善人も悪人も、無垢な子どもすら、いつ爆弾となって自分たちに牙を剥くか──あるいは死体となって転がるか──わからない、死も生も同じく手元にある場所。そんな“極限まで追い詰められた状態”でジェームズ、サンボーン、エルドリッジ、三者三様の「棺桶(死生観)」がハッキリとした違いを持って描写されていたのには舌を巻きました。
自分とは圧倒的に違い、そしておそらく「正しい」価値観を持ったサンボーンやエルドリッジを、ジェームズは否定も糾弾もしません。
自分は家庭を持つべきでないことも、電話で家庭に甘えるなんて権利があるはずもないことも、彼は理解しているようでした。

帰国したアメリカのスーパーマーケットで、普通の服に身を包み、いまだ彼に寄り添ってくれる女性と息子と並び、「シリアルを」とごく平凡なものを取ってくるよう言われ、そして、あまりの多くのシリアルに呆然とひとり立ち尽くす彼。このシーンには打ちのめされました。素晴らしい表現。自分の居場所はここにはないのだと(そんなことあるはずがないのに)、そう思わされてしまうシーンでした。
フセイン政権崩壊後、イラクの民主化を進めようとする米国と、信仰が深く根付いた国民。そこにある深い溝が埋まることはないでしょう。埋まらない溝の暗さが、その断絶された渇きが、ジェームズの孤独と同じ色をしているように感じました。そしてその孤独は彼に寄り添いこそすれ、癒すことはないのだろうとも。

“You love everything, don't you?
──And the older you get,
the fewer things you really love.
By the time you get to be my age,
maybe it's only one or two things.
With me, I think it's one.”

優しく子どもに語りかけるジェームズの声音が忘れられません。
彼の唯一とは、なんだったのでしょうか。

ジェレミー、めっちゃ良かった……マッキーもかっこよかった…😭
ひ