すずき

アンダーグラウンドのすずきのレビュー・感想・評価

アンダーグラウンド(1995年製作の映画)
4.7
昔々、とある国があった。
1941年、ナチスに占領されたユーゴスラビアの首都ベオグラード。
遊び人のクロは右腕のマルコと共に、ナチスの金や武器を盗み、レジスタンスを組織して反抗していた。
クロは女優ナタリアの恋人でナチス将校のフランツを殺し、強引に彼女をモノにする。
だがナチスの反体制狩りが進み、マルコは大怪我を負ったクロとレジスタンス達を自宅の地下の、広大な隠し部屋へと匿う。
そして25年、戦争は終わり、英雄となったマルコは大統領チトーの側近まで出世した。
だが地下室の住民たちにはその事実を隠し、今でもナチス反抗作戦の為と偽り武器を作らせ続けていた…

亡国ユーゴスラビアの歴史と、そのアンダーグラウンドを描いた作品。
実際の記録映像に、映画のキャラクターを合成させた映像は違和感なくリアル。
だがお話は完全にフィクションで、ファンタジーのような描写もある。
3章仕立て3時間もの大長編だけど、映画のジャンルは戦争・人間ドラマ・恋愛・ファンタジー・コメディの垣根を次々と飛び越え、飽きさせない。
カオス極まる映像も非凡で、他に似た作品はちょっと思い浮かばない。
特にクロのお抱えの楽団が演奏しているシーンは、オープニングのシーンから凄いインパクトで、狂乱的に騒がしいその音楽も素晴らしかった。

ストーリーテリングも良くって、特に第二章の展開が好き。
25年も多くの人を地下に隠匿し続けたマルコ。
時計を毎日遅らせて、地下の人間にはまだ20年目だと思わせる手の込りようだ。
やがてその中で子供が出来て、地下世界は小さな共同体として機能している。
マルコが彼らに事実を伏せている目的は武器売買の為だ。
だけど、地下世界に戻った時のマルコの見せる顔が、大統領側近・マルコではなく、クロの親友・マルコの昔と変わらぬ表情だった。
彼は過去のままである事と現在の、相反する二兎を得ようとしたのだろう。
やがて彼らが行き着く先に、何があるのか、何が残るのだろうか。
私は亡国ユーゴスラビアとセルビアの歴史の事は知らないけれど、歴史の中で風と共に去ってしまったモノについて想いを馳せてしまった。