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港の日本娘の堊のレビュー・感想・評価

港の日本娘(1933年製作の映画)
4.3
江藤淳と蓮實重彦の対談集『オールドファッション』で江藤淳がふいに口にする「あした支那事変がはじまる、その直前の昭和十年代の特殊な輝き」をそのままフレームに収めているかのような「贅沢」なショットで溢れている。ジャック・ターナーの『ベルリン特急』みたいな横移動におったまげると、デ・パルマ多段階ズームと輸入された拳銃の発泡、『クーリンチェ』のような揺れる電球と陰影など贅沢な数々に本気で目を疑う。昭和十年代の車が何十台も並んで、そのかげに隠れて…なんてコッポラの『タッカー』ではないか。室内を斜めに動き回るカメラと足に毛糸が凄まじい量絡んでいるのに気づかないほど激しくダンスに夢中なふたり。「船をみていると、寂しくなる」、引きちぎれて宙を舞う港に舞うカラフルなテープと、ネオンの夜景。1930年代には既に過ぎ去りし学生生活の思い出の中だけで生きてしまえた。すごい、すごいぞ清水宏。
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