豚肉丸

ゆきゆきて、神軍の豚肉丸のレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.7
終戦後に起こった銃殺事件について、アナーキストの奥崎謙三が調査するお話

滅茶苦茶面白い。「面白い」と言っていい映画なのかはわからないが、滅茶苦茶面白い。
奥崎謙三自身の思想・行動には一切同意はできない。そもそも政治思想の違いもあるが、「許される暴力もある」と言って暴力を正当化させる言動は個人的にかなり苦手でもある。まさに今で言う山上容疑者を称賛している人のようで、本当に嫌いなタイプの人間。
もちろんドキュメンタリー映画なので、映画の中心は彼である。彼は主人公のように扱われ、彼を中心に話が進んでいく。そんなドキュメンタリー映画で嫌いなタイプの人が出ていたら大抵「キッツ...」と思ってしまうが...逆に、この映画は滅茶苦茶楽しめてしまった。

奥崎謙三自身は世間一般で言えば「悪」とされる人物だが、その「悪」が正義感を持ってさらに悪い悪人と話をする。
映画の殆どは対話の場面で占められているが、戦争の闇の深さと奥崎自身の凶暴さが噛み合わさって常に緊張感が絶えること無く保ち続けるのが面白い。
それぞれが嘘をついて食い違う証言の中から共通する部分を探しだし、徐々に真相が明らかになっていく流れはドキュメンタリーとは思えないぐらいに凄い。し、その闇の深さにはドン引きする。

ドキュメンタリー映画と言っているが、多分作られた場面も何個かあるんだろうなとは感じた。むしろ、ドキュメンタリー映画と言ってカメラを向けることで、奥崎自身がどんどん過激な方向へ走っていったようにも感じられる。多分この映画を撮影していなければラストの行動は起こらなかっただろう。
ドキュメンタリー映画として非常に優れているが、同時にドキュメンタリー映画が持ち合わせる暴力性について考える上でも良い映画になっていた。
本当にとんでもなく凄い映画だった。何なんだこれは...
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