ブタブタ

ゆきゆきて、神軍のブタブタのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.0
『靖国神社に行ったら英霊が救われると思ってるのか!キサマー!!』(名言)
〈神軍平等兵〉奥崎謙三を追ったドキュメント。
原一男監督はこれはスーパーヒーロー映画だと語る。
シャマラン監督は『Grass』を「クレイジーなスーパーヒーロー映画」と語ってたけどコレぞ正に「クレイジーなスーパーヒーロー映画」
ドキュメントと言ってもカメラがあれば必ず人間は演技するものだし、カメラがあって「演者」が居る以上そこに写ってるのは現実を捉えたとしても「ドラマ」の要素が必ず入る。

自宅の屋上に〈独居房〉を再現するから寸法測らせてって神戸拘置所を訪れる。
意味わかんない(笑)って職員の対応は当たり前だし、(カメラに映らないから)「どけっ!!」って職員に怒鳴る奥崎謙三はちゃんとカメラワークも意識してる。

第二次大戦末期、奥崎が配属された部隊のニューギニアにて起きた「上官による部下射殺事件」「人肉事件」の真相を探る奥崎謙三を探偵とするミステリーの趣もある。
(もしかして本作は『手紙はおぼえてる』の元ネタ何じゃないだろうか)
但し戦争という極限下で更に日本帝国軍の南方における末期的状況ではそれ等の事は何処の部隊でも起きていた事なのだと思う。

嘗ての上官達を訪ねる奥崎。
誠実に対応する元上官も居ればのらりくらりと誤魔化そうとする元上官もいる。
出て来るのは「命令だから」「仕方なかった」「よく知らない」「忘れた」という言葉。
そして奥崎謙三の怒りが爆発する。
「知らぬ存ぜぬは許しません」のキャッチコピー通りいきなり殴り掛かる奥崎謙三。
マウントポジションからのグラウンドへのパンチ!
元上官の妻含めて途中邪魔が入るも今度は両者寝転がってグラウンドでの攻防と、流石に実際元軍人だけあって迫力がある。

奥崎謙三という人は凄惨な戦場を生き延び、しかしその原因は敵である米国でなくて大日本帝国という愚かな破滅戦争へと突き進んだ政府・為政者達である。
戦後、それ等の今も何の責任も取らずのうのうと生き続ける連中に対して孤高の戦いを続けるワンマンアーミー。
なので話しの骨子としては『ランボー』にも通じる所がある。

奥崎謙三は敗戦一年前に捕虜になり、実際の部下射殺や人肉喰いには遭遇しなかった事で、死んで行った戦友達に対するある種の申し訳なさや「死」という極限迄行けなかった事で生き延びた今もそこへ行こうと「狂気」に走ってるのかも知れない。

「田中角栄殺害準備罪」「天皇パチンコ事件」
そして元上官の息子に対する殺人未遂で奥崎謙三は逮捕される。
法廷で証拠品として初めて本作を見た奥崎謙三の感想は「あんまり面白くない」だったそうな(笑)
獄中から原一男監督に『ゆきゆきて神軍2』の構想が送られて来るも実現せず。
カルト宗教の広告塔だった元首相を射殺した人間が出て来たら彼を主人公にセミドキュメンタリー・ファンタジーバトルの〈面白い〉映画をどなたか撮るべし。
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