オトマイム

沈黙のオトマイムのレビュー・感想・評価

沈黙(1962年製作の映画)
4.2
不思議な手ざわりの作品だった。
言葉の通じない異国のホテルにとどまること、それは沈黙そのものに含まれてしまうこと。冷淡でふしだらな妹も、勤勉で潔癖である一方で酒に溺れる病気の姉も、その息詰まる沈黙に穴を開けようとする。それぞれのやりかたで。
一人息子の少年だけは沈黙の空間に身を任せている。彼は、母親も叔母も小人の旅芸人もホテルの従業員も、誰ひとりとして拒絶しない。閉ざされた迷宮の中に何本もある交わらないベクトルを彼は見つめ、ふうわりと軽やかにすり抜けているようだ。そのせいで、もやがかかった混沌とした印象の作品なのにどこか清々しい。

『仮面/ペルソナ』へ繋がるモチーフが散見される。周りの言葉を解せない=コミュニケーションがとれない=沈黙という状況。ふたりのうち一方が性に奔放であったり、少年が二人の女性を見ているという画。重い病床にあってもなお和解の糸口がなくすれ違う姉妹は『叫びとささやき』のモチーフである。そんな意味で本作はその後に発展する分岐点の作品といえるかもしれない。
イングリッド・チューリンのもがき苦しむ叫び声は強烈だった。


《神の沈黙三部作》第三作