きなこ

生きものの記録のきなこのレビュー・感想・評価

生きものの記録(1955年製作の映画)
3.9
三船敏郎の演技が圧巻。
他に適役がいたんじゃないかって思って見始める。
見終われば、そんなこと思ってごめんなさいってなるし、少なくとも30代には絶対見えなかった。最後の方なんて、実年齢忘れるレベル。

思慮深いのは誰だったのか?
必死に水爆の恐怖を訴える老人、財産その他諸々、各々の事情を訴える家族。
現実を見ているのはどっちなのか?
え!?ブラジルって…と思いながら観ているうちに、私の中で、「現実的には」「現実を見ると」の価値観が揺らいできました。まさに、最後にお医者さんが言っていた言葉に共感。
自分がこの家族の一員だったら、真っ先に考えるのはどんなことだろう?
彼の人生を変えたのは、何だったのか?

突飛なことを言っているような彼が、
ただの亭主関白な電波じゃなくって、
もともと賢くて行動力があり、家族思いで情のある人物であることがエピソードできちんと描かれているのがミソ。
(奥さんが、先のことを考えてる、自分より周りのことを、と言っていたことなど)
実際にブラジル行けと言われたら困る…確かに困るけど…でも…と、ちゃんと悩ませてくれる、笑い飛ばせない主人公の存在感。

弱りながらも一緒に行こうと語りかけ続ける老人はなんとも言えなくて、赤ちゃんは殺せん、おまえたちも同じだ、のセリフには涙が出たし、
すえちゃんの、何も考えていないのはあなたたち、も心に刺さった。
(すえちゃんが、妾の赤ちゃんに優しくするシーンがなんかお気に入り。)
火事の後の工員さんとの会話も刺さる。

最後の老人の姿はいたたまれなくて、
こうまでしないと本当には安心できない世界への警鐘をこの映画は鳴らしているのかな、と。

面白い!というか、思考が広がって行く感じで、こういうのも映画の良さだったりしますねー。
きなこ

きなこ