映画漬廃人伊波興一

デスプルーフ in グラインドハウスの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

4.8
映画が大衆娯楽でも前衛芸術でもなくなり、いずれは消える(ぬかるみ)のような存在であったとしてもタランティーノは躊躇うことなく突っ込んできそうな勢いですね。

クエンティン・タランティーノ「デス・プルーフinグラインドハウス」

私たちは映画の中で、時代という嵐が道の片隅に残して、そこに行き交う人々を絶えず困らせる(ぬかるみ)のような人間たちを、それこそ星の数ほど観てきました。

それらの多くは、一片の雲もなく、日が燦燦と照る空の元ではあっという間に消え去る存在。

いや、もしかしたら映画そのものが既に(ぬかるみ)のように誰しもが足を踏み入れる事を避けられてるのかもしれないのに、躊躇いもせずにまっすぐに突っ込んでくるのがタランティーノです。

(映画熱)という彼独自の病により、その(ぬかるみ)の中、全身泥まみれでどうにか立ち上がろうてしても、鼻血に気づくとすぐに逆上。
あろうことか今度は自分から(ぬかるみ)に身を投げ出し、ゴロゴロ転げ回り、のたうち回ります。
全身、映画の色に染まれば歯を剥き出し、狂人に相応しい表情を作り、映画を海に見立てるかの如く自由に泳ぎ始めます。

普通ならこんなイカれた奴なら見ない振りをして通り過ぎたいくらいですが、時すでに遅し。
『デス・プルーフinグラインドハウス』を観終わった後、
(映画熱)という病にすっかり感染していた事に誰しもが気付く。
そんな映画です。