プレコップ

ホーホケキョ となりの山田くんのプレコップのレビュー・感想・評価

4.8
アニメーション史上に残る不遇の傑作。

2013年に「かぐや姫の物語」ができるまでスタジオジブリでトップクラスの制作費と原画枚数が費やされた作品。しかし、実際に鑑賞すると余白を贅沢に使う、引き算の映画だと感じる。とはいえ、冒頭のボブスレー→ヨットシーン(「かぐや姫〜」の試練のシーンを想起させる)だけで、何人のアニメーターが倒れたのだろうと心配になる。今作の水彩画調の独特なアニメーションは画期的で新鮮な驚きを与え、高畑勲の遺作「かぐや姫〜」で到達する革命の片鱗を見られる(同じく冒頭の、のの子誕生シーンはまんま竹取物語だったりする)。

ストーリーとしては前半後半の大きなエピソード2篇(家庭崩壊、正義)以外はまさに4コマ世界を映画に書き出したもので、俳諧の形式を取る。そこから起こる独特なテンポ感がかなりクセになる。

「引き算」の映画として有象無象の描き方に惹かれる。父の満員電車シーンやのぼるの試験の場面は視点を絞る心地よさを感じられる。また、テレビ映像や迷子エピソードでの自動車の躍動感も光っている。

作画面での白眉は暴走族エピソードで、劇画風のタッチはそれまで見てきた作品世界とは異なる世紀末の緊張感を際立てている。その後の月光仮面シーンではまさかのAKIRAパロディっぽい場面もあり、遊び心も欠かしていない。

音響面でもやはり暴走族エピソードがハイライトで、繊細な音の動きを捉えられる。宮崎駿がユーミンなら、高畑勲は矢野顕子だ!と言わんばかりの音楽もマッチしている。

予算に対する興収成績や地上波放送時の低視聴率、そしてジブリの本流からかけ離れた作画によってしばしば封印されているような扱いを受ける本作であるが、ジブリ史的には「千と千尋」直前に製作・公開され、「かぐや姫〜」につながる超重要作である。いつもと違うジブリの一面を長編で見られる一作としてかなりおすすめ。
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