けーはち

マイ・ドッグ・スキップのけーはちのレビュー・感想・評価

マイ・ドッグ・スキップ(2000年製作の映画)
3.7
本作は作家ウィリー・モリスが実体験を綴ったベストセラー小説が原作。構築美や波乱に富む物語性はないが淡々と静かに胸に迫る動物モノになっており、犬や猫、動物が好きな人なら、お気に入りの1作となることだろう。

★1942年、ミシシッピの片田舎に住む1人っ子のウィリーは、9歳の誕生日に両親から子犬を貰った。スキップと名付けられたジャックラッセルテリアは、以来、彼の親友となる。

★ウィリーは気弱なイジメられっ子だったが、スキップとの生活を始めてからは、イジメっ子と対等な立場になり、また町一番の美少女と仲良くなる。「怪しい開運グッズの売り文句か」と言わんばかりの絶好調だが、愛犬の存在は彼にとってそれほど大きかった。「一人っ子の僕と一人っ子のスキップ」──時折、彼は独白する。スキップは孤独な少年の心に寄り添い、他者との関係を変えられる活力と勇気を与えたのである。

★今と異なる「時代」を感じさせる背景としては、無言の圧力が強い人種差別やWWII、禁酒法下の密造酒製造(ミシシッピ州では1966年まで禁酒が続いていた)などがある。少年のウィリーの生活に直接関わりはなく、せいぜい愛国少年としてスキップを志願軍用犬にしようとしたり、戦争ごっこをしてヒトラーの人形を攻撃させたりする程度だが、隣人の帰還兵(かつてスポーツ万能で憧れだったお兄さん)の心的外傷などにより、現代とは異なる空気が厳然と漂っている。それとは別に、現代でも変わらない人の心の触れ合いや、愛犬との絆のコントラストを描くのが、この映画の醍醐味だろう。

★当時の街並みの再現については国民的人気画家ノーマン・ロックウェルの作品をヒントにしたらしく、美術は非常に上質。家や道路や店構え、道ゆく人の服装や佇まい、ウィリーの部屋の本棚、壁に貼ってあるポスター等に至るまでキメ細やかで、この時代の空気にどっぷりと浸かることができる。

★スキップの動き、表情、身振りの演技達者ぶりはなかなかのもの。行動や態度にも、人間顔負けの賢さなのがよく出ていて頼もしい。ウィリーにぶたれてから墓場に行って密造酒を破壊して回る辺りは動機がイマイチ分からなかったけどスキップなりの腹いせのつもりなのかも。

★ラストの歳経たスキップも本当に名演。ああ、動物モノってこういうのでベタに泣かせに来るからズルいよね……などと言いつつ、たまにはこういうのを見るのも良いかな、なんて思ってしまう。優しい視聴感がある佳作だった。