けーはち

異端の鳥のけーはちのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
3.8
ホロコーストを逃れ疎開したユダヤ人少年の帰路を綴る白黒戦争映画。チェコ・スロバキア・ウクライナの共同制作で、主人公の少年は口を利かず、ドイツ軍はドイツ語、赤軍はロシア語を喋るが、他は「インタースラーヴィク」というスラヴ共通語の半人工言語を使う。ナチスや赤軍兵の方が慈愛があるほど住民たちが酷すぎるため、特定の民族の言語を忌避したようだ。それほど醜悪な少年への暴力/差別/搾取/蹂躙が描かれ、詩的なモノクロ映像でどうにか──は出来ず、少年少女の人権を大事にする西側の価値観ではありえない残忍な展開に各国の映画祭では途中退場者が続いたという。

中盤まで軍や戦火が画面に現れず、少年を甚振るのは主に長閑な田舎の住民で、負けじと少年側も必死に抵抗、「目には目を」の報復を覚え、堕落した人間同士が奪い合い、殺意や敵意をぶつけあう地獄の連鎖に歯止めがかからない。

ガチガチの戦争ものと言うよりは、これは戦争を背景にした、普遍的な一種の残酷な寓話、ダークファンタジーの空気である。上述の通り、ほとんどの場面で特定の民族の言語を使わないのは、各国への配慮もあるが、そうした空気感を大事にしたものだろう。事程左様に人間の本質なんて酷えもんだと闇や葛藤を浮き彫りにし、最後の最後にはどうにか「名前」を持った人間としてやって行こうぜ、という一握の希望を提示するエンドは良い。とは言え、少年を長々と甚振る展開が正味しんどい一本。