爆裂BOX

恐怖の足跡の爆裂BOXのレビュー・感想・評価

恐怖の足跡(1962年製作の映画)
4.4
記録映画出身のハーク・ハーヴェイ監督が唯一手掛けた長編劇映画で、ロメロやリンチ、M・ナイト・シャマランにも影響与えたカルトホラーです。
乗用車が橋から川に転落する自動車事故から唯一生還したメアリー。悲惨な事故の記憶から逃れるように別の町に移り住み、教会のオルガン奏者の職を得るが、不気味な男の幻影に悩まされ、廃墟となったパビリオンに何故か惹きつけられるようになっていくというストーリーです。
主人公メアリーが体験する白日夢のような悪夢や幻影を描いた作品ですが、派手なシーンなどない地味で静かながらBGMとして流れるパイプオルガンの音色や全体を覆う薄気味悪い空気感や醒めない悪夢を見ているような感覚に陥らせてくれるのが見事ですね。ヒロインが引き寄せられる廃墟と化したパビリオンも不気味さと退廃的な美しさだしてるように思います。
走っている車の窓に青白い男の顔が浮かび、ふと目をやると前方にその男が立っていたり、窓の向こうに同じ男が立ってたり鏡に映る知人や振り返った知人が死者に変わるシーンなど、そのホラー演出は日本の怪談映画を思わせる薄気味の悪い物になっています。バスに駆け込むと座席一杯に死者がいて笑顔でこちらに迫ってくる所も怖い。
主人公の日常生活で突然周囲の音が消えて誰も彼女の事を認識しなくなる空間が訪れるのも不可思議さを出しています。この現象等も合わさって、最初は不気味な死者の男の幻覚に怯えていた主人公が次第に「自分は本当にここにいるのか?」「助かったのが間違いではないのか?」と自分の存在に疑問を持ち足元が崩れていくような恐怖を覚えていくことになります。誰も認識しない空間で必死で助けを求めて駆け回って悲鳴を上げた所で夢から醒めたように現実に戻る所は「ジェイコブス・ラダー」の様に悪夢と現実が曖昧になる感覚だしてます。
ヒロインが周囲から疑問もたれるほどに周囲との関係を持つことを拒み、そしてヒロインしか見えない幻覚に怯えることで、ヒロインにアプローチかけてくれる隣人からも追い詰められてすがっても拒まれて孤立していくことになります。この孤独感も映画の雰囲気に一役買ってますね。
よくゾンビ映画として紹介されますが、本作に登場する死者たちはゾンビというわけではないですね。ただ、その目の周りを黒く塗って顔を白くしたメイクはロメロの言う通り「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」のゾンビに影響与えてるんでしょうね。水中から死者たちが顔出す所は「ランド・オブ・ザ・デッド」にも影響与えてるでしょうね。監督自身が演じる死神のような死者は何とも言えない不気味さを常に出してます。
大惨事から生き延びた生存者に死の気配が何処までも纏わりついてくる所は「ファイナル・デスティネーション」にも影響与えてるんじゃないかな。
ヒロインを演じたキャンディス・ヒリゴスの神経質そうな美貌とスクリーミングクイーンぶりが見事でした。
クライマックスでパビリオンを訪れたメアリーの前で繰り広げられる死者たちのダンスは幻想的で不気味さもあって圧巻ですね。メアリーが死者たちに追いかけられて遂に追いつかれる所は中々怖いですね。残された足跡が邦題の由来なのか。
ラストは今となってはありふれたものになりましたが、主人公が突然周囲に認識されない現象や誰とも繋がろうとしない・できない理由がオチで理解できるようになっていますね。
流石カルト映画になっているだけあって今見ても薄気味悪さ漂う傑作です。