大道幸之丞

蛇イチゴの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

蛇イチゴ(2003年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

西川美和監督による家族コメディ。

一貫しているのは「一般的な社会悪の存在も“ある場面”では正義になり得る事もある」という視点、それは今回の周治だ。

ごく平和に暮らす家族。しかしその家族を平和足らしめているその理由は「大きなウソを問われていないから」——という映画。父親のウソ、母親のウソ、長男のウソ——といった様子で成り立っている。

痴呆症の京蔵(笑福亭松之助)の面倒を章子(大谷直子)看ている意外は父親の芳郎(平泉成)と教員の倫子(つみきみほ)のごく普通の四人家族に見える明智家。倫子には婚約を考えている同僚の鎌田賢作(手塚とおる)がいる。

ある日いつものように京蔵の発作に錠剤を与える事で収まるところを、魔が差して錠剤を与えず意図的に死なせてしまう。しかしこの葬儀から騒動が起こり、芳郎が実は相当前に会社をクビになっており、しかも高利貸しから高額の借金をしていいる事実が明らかになる。そんな場へたまたま香典泥棒をした足で寄った10年前に勘当された長男の周治(宮迫博之)が居合わせ、達者に騒ぎを収める。

そこから明智家が破産する事になり、やけにでしゃばる周治が仕切りだすが、芳郎と章子は周治の逞しさに安心しきっている。しかし勘当された理由の過去から、倫子だけは周治を信用しない。今回の件で倫子は婚約者を失っている

——父親のウソがバレたところから、そこから世間体を考えて過ごしてきたこれまでの繕いの意味がなくなるところからが面白い。ウソまみれで赤っ恥の芳郎も「蛇の道も蛇」で汚れた男の周治だからこそ気を許すことが出来て自分をさらけ出してゆく。

この物語の中心は倫子だろう。その名の通り凛として、生真面目な倫子は章子に似たと思わせる描写で、瓦解しかかっている明智家を既の所でただ1人押し止める役割を担う。

過去幼少時に周治が倫子についた大嘘は「学校の裏山に蛇いちごがあって美味しかった」であった、ウソでないならと案内をしろと未明にも関わらず懇願する倫子。しかしそれは香典泥棒であることを知った周治を警察に引き渡す方便であった。

そのまま帰宅した倫子は家の庭に咲く実をつけた蛇いちごを見つける。あれほど兄を嫌い憎むほど求めていた蛇いちごは、なんと目の前に咲いていたことを知らなかった。そんな自分に愕然とする。ここはタイトルにもなった象徴的な場面である。

まず配役がいいと思う。つみきみほは大谷直子の娘としてよく似ているし、金に汚く平気でウソをつける周治の父親はやはり息子に自分の血を分けているという説得・納得力がある。

世間体を気にしながら生きる明智家と嫌味な本音を吐き下品な(おそらく大阪人の)姉喜美子(絵沢萠子)も存在感が対比としていい。