いち麦

母を恋はずやのいち麦のレビュー・感想・評価

母を恋はずや(1934年製作の映画)
4.0
小津安二郎サイレント映画。フィルムの1巻目と最後の9巻目が欠失とのこと。配信で視聴したものは台詞とト書きのカットタイトルが音読される音声(風吹ジュン&風間杜夫)と劇伴、SEも加えられたサウンド版風。フィルム欠失部分のあらすじも字幕と音声で補足されている。

一家の大黒柱が急死し、その妻と子供たちが残される。後妻の千恵子(吉川満子)と先妻の息子である長男・貞夫(大日方伝)との間のすれ違い。千恵子の実の息子である次男・幸作(三井秀男)との衝突が描かれる人間ドラマ。

例え真実を告げようと兄・貞夫が弟・幸作に母親に対する自分の感情を言葉で伝えるのはとても難しいだろうと思って見ていた。そこを代わって母が長男の気持ちを次男に分かりやすく響くように説明していた。脚本の上手さになるほどと納得した。心に沁みるイイ台詞だった。

冒頭部のフィルム欠落のため、亡くなる前の父が息子たち異母兄弟2人にどのように接していたかが見られず残念。だが、それ以上にラストで家族3人が再び心を通わせ始める過程が最終巻の欠落で見られないのがとても悔しい。

物語中に出てくる“チャブ屋(あいまい宿)”は広い意味で売春宿のようなものらしいが、映像ではその如何わしさがよく分からない。特にここに“居座る”という状況が今の自分にはイメージできなかったもので当時の風俗の一端を興味深く見た。

チャブ屋に入り浸っていた貞夫の友人・服部役で笠智衆が出演。飯田蝶子のチャブ屋・清掃婦役は完全に脇だがキーパーソンと言えそう。
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