Sari

赤い影のSariのネタバレレビュー・内容・結末

赤い影(1973年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2021/10/18 DVD

「レベッカ」「鳥」等のヒッチコック作品の原作でも知られるデュ・モーリアの短編小説「Don't Look Now」(いまは見てはだめ)の映画化作品。
撮影監督出身である映像の魔術師ニコラス・ローグ監督の代表作。
脚本はアラン・スコットで元ウィスキー会社の社長(劇中にボトルが登場)と、クリス・ブライアント。

ニコラス・ローグ監督の経歴は、デヴィッド・リーン『アラビアのロレンス』、ロジャー・コーマン『赤死病の仮面』、トリュフォー『華氏451』にて撮影監督を務めた後、『パフォーマンス』で監督デビュー、『美しき冒険旅行』の次に取り組んだのが本作。
‘’人生は制御できないものであり、我々は所詮操り人形である‘’という人間の逃れられない宿命という題材に魅了され制作された。
ホラー映画の地位を押し上げただけでなく、最も赤裸々なベッドシーンを描き、親達は子供に赤い雨ガッパを買わなくなったという。


イギリスに暮らす夫婦が、娘を水難事故で亡くした後、夫の教会修復の仕事のため二人はベニスに行く。そこで姉妹に出会うが一人は盲目で霊感があり亡くなった娘が見えると言われ、ベニスに居ると危険だと警告される。

原作との違いは娘の死因で、小説はベニスから始まり娘は髄膜炎で亡くなるが、ローグは水の都ベニスからヒントを得て、水を全体のモチーフにし溺れる場面が加えられた。
水の都ベニスでの撮影は、冬のオフシーズンに6週間かけて行われ、暗く閑散とした奇妙で世界から隔離されたような雰囲気を持つ。

主人公ジョン・バクスターをドナルド・サザーランド、妻のローラをジュディ・クリスティが演じる。制作当初からローグ監督は、主役はこの二人以外考えられないと決めていたが、サザーランドは他の映画撮影、クリスティは政治活動のため断念し、別の俳優で撮影が始まろうとするが、撮影開始寸前急遽二人の予定が空き、無事撮影が可能となったという。子供を亡くした夫婦の複雑で繊細な心理演技を引き出したローグ監督の観察眼は素晴らしい。
最初に撮影されたのがベッド・シーンで、娘を亡くして以来初めて肌を交わす夫婦を写実的に撮らえ話題かつ問題となり、映画公開が先延ばしになった。

観客を戦略的に惑わす伏線が散りばめられ、
ホラーや心理スリラーと銘打たれるが、人間の喪失と悲嘆を深く見つめた奥の深いテーマであり、過去・現在・未来が同時進行した不明瞭な時間の観念を持つ映画である。
鍵となる水、ガラスや赤のイメージに重なる独特の編集で散乱したモチーフは悲劇的な最後の場面で1つとなっていく視覚的なヒントを追う謎解き映画でもある。


2021-304
Sari

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