チッコーネ

チャドルと生きるのチッコーネのレビュー・感想・評価

チャドルと生きる(2000年製作の映画)
3.7
数十分ごとにヒロインがバトンタッチしていく形式。
ロケオンリーでテヘラン生活の息吹を感じられる撮影がグッド。
また眼前で繰り広げられる出来事を定点観測するかのような、固定カメラ撮影の場面も印象に残る。

23年前の映画ながら、現在も非常にタイムリーな内容(いま本作を配信に回さないVOD各社、ほんとにバカだと思った)。
イラン社会が全く変わっておらず、むしろ頑迷かつ執拗に拘泥中なのがよくわかる。

本作で描かれる「抑圧に反抗した結果、袋小路にはまった女性たち」を生み出したのは革命世代であり、その中には女性も多く含まれる。
そもそもホメイニをメンターにした時点で、政教統合の流れが生まれてしまうのは明らかだったのだ。
さらに「アメリカ大使館人質事件」の学生スポークスマンとして注目を集め、副大統領まで登り詰めたマソメ・エブテカールという「ドグマ型女性権力者」がいたことも、イラン女性にとっての不運であった。

結局本作に登場した女性キャラクターたちはみな、刑務所へ戻るよりほか道のない国内難民。
その有様は、皮肉にも中世キリスト教の『魔女狩り』と親和性が高い。
彼女たちの抱える困難の内実および、強化構造をリアルに感じ取れるという意味で、告発力は非常に高かった。

監督が政府に睨まれる契機ともなった作品で、イラン国内ではいまだ未公開。
さらに彼が昨年収監され、現在獄中といま知って、ショックを受けている…、柔和な笑顔の裏に知性と闘志を感じさせる佇まいが、とても素敵な人だ。