さすらいの用心棒

首のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

(1968年製作の映画)
3.8
戦時中の官憲による拷問死を弁護士(小林桂樹)が告発した実際の事件を映画化した社会派サスペンス。


『八甲田山』『日本沈没』の監督・森谷司郎と脚本・橋本忍の初タッグ作品。

警察と検察の共謀で誤魔化された司法解剖を民間で行うために、弁護士らが遺体から首を切り落として鉄道で運ぶというところまで実話というのだから恐ろしい。切断のシーンは一切見せなかったが、肉を引き裂く音や骨のガリガリという音が生々しくて嫌でも想起させてしまう演出には文字通り恐れ入った。

黒澤明映画で長年助監督を務めていた森谷司郎が、『七人の侍』の撮影、編集、録音、脚本でスタッフで固めて製作した本作だが、陰影の強い重厚な画づくりや、佐藤勝のホラーテイストな音楽も効果的だったと思うが、テンポまでが重厚になってしまってすこしダレてしまい、セリフでの説明が多いので、若干あくびを誘ってしまう。それも、怒涛の後半までの話だが、前半を頑張ってくれたら最高だった。高橋悦史をナレーターに起用したのも嬉しい。

原作者である正木ひろし弁護士の役を小林桂樹が演じているが、細い目から黒い光をギラギラとさせ、絶えず苦痛の表情を浮かべ、「死骸が叫んでる。『このままでは俺は腐る! 早く、早くこの首を切ってくれ!』」と叫ぶなど、常軌を逸した執心ぶりはもはや異常者で、どう考えても本人に似せているとは思えない。小林桂樹はこのあと『日本沈没』でまったく同じキャラで田所教授役を演じることになるが、演技の凄まじさでは本作が明らかに群を抜いており、顔のアップだけで画を持続させるだけの演技力を持っていた小林桂樹だからこそできた映画だと思う。これは、森谷司郎の映画でも橋本忍の映画でもない。小林桂樹の映画だろう。

同じく正木ひろし原作で、同じく橋本忍脚本の『真昼の暗黒』につながるラストになっていたので、取り急ぎ見なければ。