午後

野性の少年の午後のレビュー・感想・評価

野性の少年(1969年製作の映画)
4.5
幼い頃に親に捨てられ、森の中で育った野生の少年を、トリュフォー自らが演じる博士が教育していく。少年の社会化されていない身振りの数々、とりわけ全身で雨や満月を喜ぶ姿が印象的。トリュフォーの映画によく出てくる、相手の顔に触る行為が、最高の愛情表現としてヴィクトールに受け取られているのがなんか良い。
生徒が理解しないのは教師の責任だとして、相手の立場に立って、わかることから順を追って教えていく。正解した時には褒めて、間違えた時には叱る。単純な条件付けの実験のようであって、これが教育の原点なのかもしれない。音と言葉、音と文字、言葉と意味を結びつけるのって自然と覚えてやっていることだけど実はかなり高度なことなのかもしれない。喉を触らせながら母音の発音を教えるシーン、僕もこのレッスン受けてみたい。
ヴィクトールと博士の交流、反復と学習の様子が淡々と語られていくだけなのだが面白い。ドキュメンタリーを観ているような面白さ。鏡に興味を示したり、牛乳を指す語を、牛乳を貰ったお礼のように使ったり、発達心理学とか詳しかったら色々解釈を発展させていけそうな描写がある。よその子供と手押し車で遊ぶシーンには思わず顔が綻んでしまう。

金槌や鋏など、言われた言葉通りの日用品を持ってくる勉強など、ウィトゲンシュタインの探究における言語ゲームの例としての大工のやりとりを思い出した。
印象的に使われる、美しいヴィヴァルディのマンドリン協奏曲は、後の『クレイマー・クレイマー』でも使われていた。
ドワネルくんシリーズ以降脈々と続く子供たちへの愛に満ちた視線、孤児たちへの共感に溢れたトリュフォーの思いやりが感じられる。ジャン=ピエール・レオーに捧げられているのがジーンとくる。

舞台が18世紀の終わり頃なのだが、爪切りが怖すぎる。爪切りの発達は間違いなく人類の進歩。
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