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男の敵のkaomatsuのレビュー・感想・評価

男の敵(1935年製作の映画)
4.0
アイルランド独立戦争のさなか、ある組織に仲間を売り渡した男の空しい生き様を描いた、名匠ジョン・フォード初のアカデミー監督賞受賞作品。西部劇を中心に、“強い男”を描き続けたジョン・フォード監督が、いわゆる“サイテー男”を主人公に据えながらも、そのサイテー男に同情の眼差しを向けつつ、自身のルーツであるアイルランドの不安定な情勢を憂う、その切実な想いが胸を打つ、初期の傑作だ。主人公ジポの、仲間を売り渡し、往生際悪く逃げまくる、あまりにも愚鈍なサイテー男ぶりは、観ていて腹立たしささえ感じてしまうが、そのあまりにもやり切ない幕切れゆえ、貧困や民族紛争など、アイルランドが抱える諸問題の犠牲者としてのジポの姿が浮き彫りとなり、考えさせられてしまう。娯楽性の強い作品を多く作ったジョン・フォードという大監督が、その一方でシリアスで地味な社会ドラマに冴えをみせる監督でもあったことがうかがえる一作。その作風は、『怒りの葡萄』『わが谷は緑なりき』にも共通して感じ取れる。
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