針

Mの針のレビュー・感想・評価

M(1931年製作の映画)
3.8
⭐️背中の「M」は「Mörder(マーダー)」の「M」!
⭐️連続殺人鬼のあかし!

……などとふざけたことばかり言ってはいられない、非常にシリアスな作品でした。フリッツ・ラングの代表作。気になる部分はあれど、1931年製作とは思えないくらい見応えがありました。全体のまとめ方がよくて自分はけっこう好き。

幼い少女ばかりを狙う残酷な連続殺人鬼によってドイツ中が騒然となり、警察も血眼になって犯人を追うがなかなか尻尾が掴めない。そんななか、警察のたび重なるガサ入れによって“商売”に支障を来たした犯罪グループが自分たちで犯人を挙げるべく動きだし、警察と犯罪グループが両面から犯人を追っていく……。

冒頭、学校帰りの少女が正体不明の男に攫われ殺されるまでを、少女の帰りを待ち侘びる母親と並行して描いていくシーンが残酷だけどかなり良い。母親の心配がだんだん膨れ上がっていく様子がよく分かるし、殺害シーンは直接映さず、洗濯物干し場、使われないままのお皿、少女の手から離れたボールが転がるさま、電柱、というイメージ的なショットをつないで無言で語っているところがすごいなーと。
ここに限らず、警察の会議と犯罪グループの会議を類似したセリフや構図でもってなめらかにつなぎながら2ヶ所の話し合いを並行して描いていく中盤のくだりなど、語り口におもしろい部分の多い映画でした。出来事が終わったあとの誰もいない静止画ショットを数秒間映すことで余韻を生むような感じとかもねー。

いわゆる犯罪映画とかサイコスリラーとしてはかなり初期の作品に当たるのでしょうか。前半の捜査シーンや後半の犯罪シーンのディティールを非常に丁寧に見せているのは、それ自体が物珍しくて観客にとっても興味を惹かれる部分だったからかなーと思う。けど個人的には、犯罪&捜査のシーンは時代の変化に合わせてとても古びやすいという印象があって(黒澤明の『天国と地獄』とかメルヴィルの『サムライ』を観て思いました……)、この映画も丁寧なんだけど正直ちょっとスローテンポには感じたかな。それと犯人の特定も、今の目で見るとかなり偶然に頼ってるような。

○しかし自分は犯人役のピーター・ローレの佇まいの説得力と、お話のまとめ方にけっこうおもしろさを感じた次第。
ピーター・ローレは登場シーンは短めだけど絶大なインパクトがあると思う。実はこのタイプの殺人鬼像を描いた先駆作なのかなーと勝手に思ったりしました。殺人の前に彼が吹く口笛も印象的。
それと終盤はそういう感じになるの!? と思いました。
どちらも詳しくはコメントのほうに書いておきます。

題名の「M」は、どうしてこういう展開が選ばれたのかは不明だけどこれも絵面のインパクトがあったなー。なんか「アリババと40人の盗賊」みたいな感じ。
フリッツ・ラングは『メトロポリス』も観たいのですがバージョンがいろいろあるのでどうしようかなーと思ってエンエン先延ばし中……


あとはコメントのほうに。
針