半兵衛

やさぐれ刑事(デカ)の半兵衛のレビュー・感想・評価

やさぐれ刑事(デカ)(1976年製作の映画)
4.0
タイトルの『やさぐれ刑事』を見事に体現するアウトロー刑事・原田芳雄の素晴らしさ。過剰なバイオレンスや悪党をおちょくるときの飄々とした無頼漢ぶりと、かつて原田に逮捕されたことを根に持っているヤクザ・高橋悦史に妻の大谷直子を奪われ狼狽し心神喪失してしまう心の弱さ、逃避行を続ける髙橋と大谷を徹底的に追跡し、彼らを精神的にいたぶる陰険さ…。これらをすべて表現しつつ、男らしいキャラを崩さないのは原田芳雄ぐらいしかいないのでは。それらを濃いイケメンっぷりと溢れる男性フェロモンが更なる説得力をもたせる。原田の後輩にあたる萩原健一や松田優作も出来そうなのだけれど、彼らが演じると「カッコ悪さにあるカッコ良さ」が前に出てくるからちょっと違ってくるかな。少なくとも再会して売春婦になっていた奥さんの大谷に容赦なく服を脱がせてすぐベッドインし、大谷を「お前を淫売だとよ」と言葉責めしつつも実は自分のことを責めている名シーンは原田でしか成立しないと思う。

原田が二人を追跡するために様々な地方を訪ね探索するのだが、その観光地を避けたチョイスが絶妙でその土地ならではの雰囲気も出ているので見ごたえがある。1976年当時の日本の生々しい風景も見れるのが今となっては貴重。

原田の容赦のない悪や奥さんなどに対する接し方が物語に緊張感をもたらしてくれる。復讐のため高橋の仲間に情けをかけず殺害し、いないとわかるとずんずんと次の場所に進む彼の姿はまさしくB級アクション映画の鑑である。大谷が出ていたブルーフィルムを見ていてヤクザたちを容赦なく爆殺するシーンも最高。

大谷直子の枯れたヒロイン像も、原田の相手役にふさわしく映画を盛り上げてくれる。あと一緒に出ているロマンポルノの女優に負けず、すぐに裸になってくれるところも眼福。原田の後輩刑事を演じる若き日の清水章吾のサポートも印象に残る。

主役二人に対して高橋悦史のキャラが感情のない記号になっていたり、やや場当たり的な展開は気になるもののそれでも見ていて面白い。そしてラストの高橋と決着を着けたものの逮捕され、護送される電車内で自嘲とも無常ともとれる様々なニュアンスを醸し出す原田の演技が見事に締める。でもその直後の大谷の演技はメロすぎていらないかな。
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