それから舞台がよい。ローマのテヴェレ川の右岸にあるトゥルッロ居住区。左岸にはエウル地区があり、トゥルッロ地区の高台からデ・キリコの絵で知られる「イタリア文明宮」(Palazzo della civiltà italiana)がちらりと見える。このあたりは、たしかベロッキオの『夜よ、こんにちは』(2003)でも使われた。もちろん有名なのはパゾリーニの『大きい鳥と小さい鳥』(1966)。
ここに最初の建築物ができたのは、第一次大戦のころの有刺鉄線工場だったという。そのころは小高い丘の草原であり、羊を放す牧草地だったわけだ。居住区(ボルガータ)の計画はファシズム時代。1939年に、ファシスト社会住宅公団 ( l'istituto autonomo fascista delle case popolari )が住宅建設に着手するのだけど、その目的は、参戦を前にしてフランス、アルジェリア、エジプト、モロッコ、チュニジアなどにいたイタリア人入植者を、帰国させるための住宅建設だったという。
ニッキャレッリのキャスティングのとき、そんなトゥルッロ居住区にある学校の前に張り付いて、使えそうな子どもをスカウトしていったという。主役の兄弟ふたり、ルチャーナとアルトゥーロを演じた、ミリャーナ・ラスキッラー(Miriana Raschillà)とピエトロ・デル=ジューディチェ(Pietro Del Giudice)のふたりもそうだ。