千年女優

薮の中の黒猫の千年女優のレビュー・感想・評価

薮の中の黒猫(1968年製作の映画)
4.0
律令制から王朝国家体制への移行に伴って武家が力を得始めた平安後期。野武士一団の手で無残な最期を遂げた農家の女と嫁で、死後に化けて出て藪中の屋敷に招き入れては侍を殺すヨネとシゲ。羅城門の妖怪と恐れられる二人の討伐を命ぜられた農民出の武士・八が二人が自身の留守中に死んだ実の家族と知る皮肉な運命を描く怪談映画です。

戦前から活躍する映画人で娯楽劇から社会派まで幅広い作品を脚本家として支えつつ監督としても表現の自由を求める姿勢を貫いた新藤兼人による1968年公開の作品で、自身が4年前に発表して全裸の女性の失踪を描いたことで話題になった『鬼婆』と同じく中世日本を舞台にした女性に纏わる怪談映画の力強さが海外でも高く評価されました。

日本伝統の「化けて出る女」の物語を時代背景含め深く掘り下げ、それを陰影を巧みに操るモノクロとエッジの効いた演出で趣あるものに仕上げます。形変われど「力」が弱きを手籠めにする構造に終わり見えぬ人間社会。最後まで肉親と妖怪どちらの思いも拭えぬ葛藤は切なく、然れど一度力に溺れた者を諫める顛末で人の性を問う一作です。
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